血糖値が高い状態が続く糖尿病
糖尿病とは、「インスリンの作用が十分ではないためブドウ糖(グルコース)が有効に使われずに血糖値が普段より高くなっている状態」と定義されています。
- インスリン:血液中のグルコースを肝臓、筋肉や脂肪組織の細胞内へ取り込むため膵臓から分泌されるホルモン
グルコースはからだにとって重要なエネルギー源です。運動時には筋肉を活発に動かすために使用され、脳が活動するときにもグルコースが必要です。
血糖値は膵臓から分泌されるインスリンとグルカゴンというホルモンで至適な濃度に調整されています。
糖尿病とは、血液中のグルコース濃度(血糖値)が高い状態が続く病気です。血糖値が高い状態が続くと深刻な健康被害が発生します。
糖尿病の診断は血糖値とHbA1cで
血糖値の異常とHbA1cの上昇がともに糖尿病型だと糖尿病と診断されます
HbA1c(ヘモグロビンエーワンシー)について
酸素を運ぶ赤血球中のヘモグロビンに付着した血糖値の割合を測定します。
血液中のグルコース濃度が高い状態が続くと、ヘモグロビン周りにグルコースがベタベタと付着します。
HbA1cは検査前2〜3ヶ月間の血糖時の状態を知るための検査です。直前の絶食は必要ありません。
75g経口ブドウ糖(グルコース)負荷試験とは
一晩絶食の状態で過ごし、まず空腹時血糖値を測定します。その後、75gのグルコースが溶けた液体を飲みます。飲んでから2時間目までの血糖値の動きを追います。
血糖値の上がり方や下がり方を評価します。
受診・治療のタイミング
健康診断などで、空腹時血糖値が126mg/dL以上、または HbA1cが6.5%以上なら医療機関を受診し検査を受けましょう。
血糖値やHbA1cの基準
- 随時血糖値
食事のタイミングに関係なく血液検査でグルコース濃度(血糖値)を測定します。
随時血糖値 140 mg/dl 未満 正常値 140 – 200 mg/dl 境界型(食後高血糖) 200 mg/dl 以上 糖尿病型 - 空腹時血糖値
10時間以上の絶食状態(食べ物だけでなくカロリーのある飲み物も取らない)でのグルコース濃度(血糖値)を測定します。
空腹時血糖値 100 mg/dl 未満 正常値 100 – 110 mg/dl やや高め 110 – 126 mg/dl 糖尿病に近い状態かも 126 mg/dl 以上 糖尿病型
糖尿病の症状
糖尿病(血糖値の上昇)は自覚症状がないことがほとんであり、気付かないうちに発症しています。しかし、グルコース濃度(血糖値)が上がりすぎると以下のような症状が出る可能性があります。
【高血糖による症状】
- 喉が渇いている
- 頻繁に排尿する
- 視界がぼやける
- 疲労感
- 頭痛
- いらいらする
- ダイエットしていないのに体重が減る
上記のような症状がある場合は、血糖値が上がっている可能性があります。
高血糖すぎると命にかかわる
高血糖の状態が続くと命に関わるような状態に陥ってしまう可能性があります。糖尿病性ケトアシドーシスと高浸透圧非ケトン性昏睡と呼ばれる状態です。
緊急で集中した治療が必要になります。
- 糖尿病性ケトアシドーシス
尿量が多くなったり、喉の渇きが強くなり、嘔吐や腹痛があり、重症になると傾眠になったり呼びかけに反応しなくなったりします。
緊急で水分を補給したり、インスリンを投与することが必要になります。
詳細
1型糖尿病(インスリンの分泌が減っている)で起こりやすい。
インスリンがないことでエネルギーであるグルコースが細胞に入り込めずに、他のエネルギー源である脂肪が分解され始めます。
脂肪が分解されるときにケトン体が発生し血液中に増加する。
ケトン体は酸性であり、血液中のpHバランスがアシドーシスへ大きく傾きます。強いアシドーシスは体の状態を不安定にします。
- 高浸透圧非ケトン性昏睡
典型的な初期症状はありませんが、喉が乾いて、嘔吐や腹痛があったり、傾眠になったり呼びかけに反応しなくなったりします。
緊急で脱水状態を改善させたり血糖値を下げるために治療が必要になります。
詳細
2型糖尿病(インスリンはあるが作用が落ちている)で起こる。
600mg/dl以上と血糖値が高い状態(正常の空腹時で100mg/dL前後)になると、血液中の浸透圧が上がって高度の脱水状態になります。
糖尿病の原因
血糖値が高い状態が続く原因を理解するには、体の中で血糖がどのように利用されるかを知る必要があります。
上記の図のように血糖値が上がると膵臓からインスリンが分泌されます。インスリンにより血糖(グルコース)は、筋肉・脂肪・肝臓に取り込まれます。
血糖値が高い状態が続くとインスリンの分泌やインスリンの効き具合に変化が生じます。以下の二つの変化で血糖値が下がりにくくなり、糖尿病になってしまいます。
インスリン抵抗性
インスリンが分泌されてもうまく作用しないと血糖値がさがりにくくなります。
そのため、より多くのインスリンを分泌して血糖値をなんとかさげようとします。
これをインスリン抵抗性と言います。
たくさんのインスリンを分泌しようとするので、膵臓はばててきます。
結果的に、インスリンの分泌は低下していきます。
インスリン抵抗性の主な原因
インスリン抵抗性には下記のような原因が考えられています。
- 遺伝
- 肥満(特に内臓脂肪)
- 運動不足
- ストレス
- 食事
糖尿病には遺伝的な要素が関わります。そこに生活習慣病の乱れが加わることでインスリン抵抗性が生じて糖尿病を発症します。
インスリン分泌低下
血糖値が高い状態が続くとインスリンを分泌する膵臓がばててきます。
すると食事をとってもインスリンの分泌が遅れたり減ったりします。さらに進行するとインスリンの分泌不全になります。
インスリンが減ることで、血糖値は下がりにくくなります。
膵臓からインスリンが全く(もしくはほとんど)作られなくなるとグルコースを細胞に取り込んで活用することができなくなります。血糖値も上昇します。
この状態を1型糖尿病と言います。
1型糖尿病は、小児期や青年期に発症することが多いですが成人になった後で発症することもあります。1型糖尿病は生活習慣病ではありません。
原因は不明ですが、遺伝性やウイルス感染の関与が指摘されています。
インスリンが分泌されないため、インスリン治療が必要となります。
糖尿病の問題点
糖尿病の問題点は、いろいろなタイプの合併症が起こる可能性があることです。それぞれの合併症は、大きく日常生活の質を低下させます。
糖尿病の合併症は「小さい血管の病気」と「大きめの血管の病気」に分けられます。
小さい血管の病気
血糖が高い状態が長く持続すると、全身の小さな血管を傷つけて血管が詰まったり破れたりします。
この糖尿病による小さな血管がつまったり破れたりするのは、眼球の網膜、腎臓、全身の神経で問題となることが多いです。
糖尿病網膜症
糖尿病性網膜症は成人の失明の原因の一つです。
糖尿病性腎症
糖尿病性腎症は透析治療の原因の第一位です。
糖尿病性神経症
全神経が損傷すると多彩な症状が出ます。
大きめの血管の病気
血糖値が高い状態が続くと、小さな動脈以外の動脈でも動脈硬化が進みます。血糖値が高い状態が続くと動脈硬化(=生活習慣病)が進行し、以下のような病気が発生するリスクが高くなります。
脳梗塞
脳に酸素や栄養を送る血管に動脈硬化が起こり血流が途絶えると脳の細胞が壊死します。
これを脳梗塞と言います。
麻痺などの症状を残し、生活の質を著しく低下させます。
虚血性心疾患
心臓を栄養する動脈(冠動脈といいます)に動脈硬化が起こると、血流の低下で胸が痛くなったり(狭心症)、血流が途絶えると心臓の筋肉が壊死し心臓の働きが低下します(心筋梗塞)。
糖尿病は、狭心症・心筋梗塞のリスクを増加させます。
末梢動脈疾患
手足を栄養する動脈に動脈硬化が起こると、血流が低下し足が痛くなったり、色が悪くなったりします。
血流が不十分だと、先の方から壊死していきます(壊疽)。
上記の合併症が統合されると、足の感覚がなく、血流が悪いことで足が壊疽になってしまうことがあります。
一度、壊疽になってしまうと菌が一気に増殖してしまいます。重症だと、救命のため下肢の切断が必要になります。
糖尿病は動脈硬化を強く進めます。他の動脈硬化リスク(高血圧、脂質異常症、喫煙など)も厳重に管理する必要があります。
その他の合併症
小さい血管、大きめの血管の問題以外にも血糖値が高いことで以下のような問題が生じることがあります。
- 感染しやすい:小さな傷から感染がひどくなったり、歯周病が進行し歯が抜けやすくなったりします
- 聴覚障害:糖尿病があると聴覚の低下リスクがあがります
- 認知機能低下:2型糖尿病は認知症のリスクを高める可能性があります
放置された糖尿病のリアル
自覚症状の乏しい糖尿病は、放置されることが少なくありません。糖尿病を放置すると体は徐々に蝕まれていき、元の状態に戻れなくなるなります。
厚生労働省は「糖尿病の治療を放置した働き盛りの今」という冊子を作成しています。糖尿病を放置してはいけない理由がよくわかります。怖さを実感しましょう。
糖尿病と診断されたら必ずライフスタイルを見直し、適切な治療を受け、管理を続けることで合併症の発生を防ぎましょう。