生活習慣病に関連する肝臓の病気は、以前から脂肪肝が知られています。そのうち、NASHとかNAFLDという概念が知られるようになり、最近ではMASLDという疾患名が診断されるようになりました。
生活習慣病に関連した肝疾患の名称、分類について説明します。
肝障害を指摘されたら
肝臓は沈黙の臓器と呼ばれるている通り、障害があっても自覚症状はほとんとありません。
いわゆる肝障害は血液検査をした時に指摘されることが多いでしょう。特に健康診断などで指摘されることがあります。
肝障害の原因として多いのは?
肝障害の3大原因は、ウイルス性、アルコール性、生活習慣病関連です。
- ウイルス性肝炎
肝臓に炎症を引き起こすウイルスは多くありますが、代表的なものとしてB型肝炎ウイルス、C型肝炎ウイルスがあります。
B型肝炎ウイルスおよびC型肝炎ウイルスは慢性的な経過で炎症が続き、慢性肝炎から肝硬変、肝臓がんになる可能性があります。最近では、ウイルスに対する薬があります。
- アルコール性肝障害
アルコールは有害物質であり、肝臓で無毒化されます。
肝臓はアルコールを分解する以外にも多くの仕事がありますが、アルコールを習慣的に飲んでいると大きな負担がかかることになります。
さらに、アルコールやその代謝物は組織に対して毒性があり、肝臓に炎症が起き肝臓の細胞が壊されていきます。アルコールをやめることで肝臓の変化を止めることが可能です。
- 生活習慣病としての肝障害
生活習慣病は食事のバランスが悪く食べ過ぎていたり、運動不足の生活が続くことで発生します。取り過ぎて余ったエネルギーは体に蓄えられ、皮下や内臓脂肪になったり、肝臓にたまることで脂肪肝になったりします。
脂肪肝は肝硬変へ移行する可能性があります。ライフスタイルを見直すことでしか、進行を止めることはできません。
その他の肝障害の原因としては以下のようなものがあります。
- 薬剤性:定期的に内服している薬剤で肝障害を起こすことがあります。
- 免疫性肝疾患:自己免疫肝炎、原発性胆管炎、原発性硬化性胆管炎など
- 遺伝性肝疾患:ヘモクロマトーシス、ウィルソン病など
肝障害の原因を放っておくと・・・
肝臓が慢性的に障害を受けていると慢性肝炎という状態になります。炎症が長く続くと組織が変化していきます。正常の細胞が減少し、硬い線維に置換されていきます(線維化)。
肝臓が線維化されていくと肝硬変という状態になります。肝硬変になると肝臓が処理してきた多くの機能が低下します。お腹に水が溜まったり、毒素がたまって意識がなくなったりします(肝不全)。
さらに、慢性的な炎症や肝硬変の状態になると肝臓のがん(肝細胞がん)が発生するリスクがあがります。
脂肪肝・MASLDとは
脂肪肝とは肝臓に脂肪が蓄積して、正常の肝臓の細胞と置き換わっている状態です。
アルコールを習慣的に飲む方はアルコール性肝障害の結果で脂肪肝となり肝硬変へ侵攻することはよく知られています。
アルコールを飲んでいない(または少ししか飲まない)方でも脂肪肝になります。さらに進行して肝炎の状態になったり、肝硬変になることもあります。脂肪性肝疾患はアルコールの摂取に関わらず「SLD: steatotic liver disease」と総称されます。
アルコールを(あまり)飲まない方でメタボリック症候群を満たす場合の脂肪肝〜肝炎・肝硬変のことをMASLD(metabolic dysfunction associated steatotic liver disease)と呼ばれるようになりました。
MASLDの日本語名は「代謝機能障害関連脂肪性肝疾患」となりました(2024年8月)。
MASLDの原因
MASLDの原因は、アルコール以外の生活習慣が影響しています。つまり、生活習慣病です。MASLDの患者さんは、肥満、メタボリックシンドローム、高血圧、脂質異常症や糖尿病などの生活習慣病を合併している方は少なくありません。
たくさん食べて体を動かさないと、摂取するカロリーが消費されるカロリーよりも多くなります。体はいつか来るかもしれない飢餓状態に備えて、余ったカロリーを蓄えようとします。
肝臓で余ったエネルギーから中性脂肪(トリグリセライド)が生成され、肝臓に蓄積されます。
MASLDは遺伝的素因によりなりやすい方もいます。
MASLDの診断・分類
メタボリック症候群を伴う非アルコール性脂肪性肝疾患(MASLD)の診断は以下のステップで行われます。
脂肪肝であり、かつ以下の条件の一つ以上を満たす場合にMAFLDと診断されます。
- 肥満(BMI 23kg/m2以上)
- 2型糖尿病
- やせ or 正常体重で2項目以上の代謝異常(高血圧、内臓脂肪蓄積、耐糖能異常、脂質異常)
- MAFLDでは、アルコールの量や肝炎ウイルスの有無は加味されません。
アルコールの摂取状況や食生活、運動習慣などを聞き取ります。また、肥満がないか体重を測ったります。他の生活習慣病の合併も評価します。
- 肝臓機能検査:AST、ALT、γ-GTPなどを測定し肝臓の障害程度を確認します
- 生活習慣病のチェック:脂質異常症、糖尿病など
- ウイルス検査:肝炎の原因となるウイルスに感染していないか確認
- その他の原因精査:免疫による肝障害などの評価
腹部超音波検査、CT、MRIなどで肝臓の状態を確認します。
肝臓の専門医が必要と判断した場合のみ、入院して肝臓から組織を採取して検査されます。NASHかどうかの判定で施行されます。
- MASLD:脂肪肝の状態
- MASH:脂肪肝から肝臓の炎症へ進行した状態。血液検査で炎症や線維化を示す値が上がります。肝生検で診断されます。
MASLDの治療
MASLDは、いわゆる生活習慣病(肥満、糖尿病、脂質異常症、高血圧など)と密接に関係しています。「MASLDがある=生活習慣が乱れている」と考えましょう。肝臓が生活習慣の乱れについていけなくなっています。
治療の最も重要なポイントは、生活習慣の乱れを自覚し改善することです。
まずは、下記を参考に生活習慣の改善を試みます。
MASLDは進行のリスクが高いため、消化器内科(肝臓専門)で適切なフォローを受けましょう。