ここでは、いびき・睡眠時無呼吸と心房細動の関係と睡眠時無呼吸症候群を治療することの意義について解説します。
いびき・無呼吸と心房細動
心房細動の患者さんはいびき・無呼吸を有していることが多い
心房細動の患者さんの多くは閉塞性睡眠時無呼吸症候群を有しています。
その割合は報告によりますが、2割〜7割と言われています。体感的には、心房細動患者さんの半数以上で睡眠時無呼吸症候群を有していると感じます。
しかし、ほとんどの患者さんは自覚症状(昼間の眠気など)がありません。
そのため、いびきをかいていても問題があると思っていません。ただし、よく聞くと起きた時に頭が重いとかだるさがあったり、夜間の眠りの浅さや覚醒の頻度が多いことを自覚している場合もあります。
【就寝中の症状】
- いびきが大きい
- 寝返りが多い
- 排尿したくなって目を覚ます
- 口で呼吸している
【覚醒中の症状】
- 目が覚めたときに体がだるい
- 目が覚めた時に頭が痛い
- 喉が渇く、痛みがある
- 昼間の眠気が強い
- 記憶力、集中力が低下する
- 意欲が低下する
閉塞性無呼吸が重症であるほど心房細動が多い
閉塞性無呼吸の重症度と心房細動発生のリスクの関係を調べた研究の結果では、重症度が高い方が心房細動が発生するリスクが上がっています。重症度を4分割した場合に、最重症のグループでは最も軽いグループと比べて心房細動の発生リスクが2.3倍になっています。
閉塞性無呼吸があると心房細動が発生しやすくなりますが、重症であればあるほどそのリスクが上がります。
閉塞性無呼吸の体への影響
睡眠時無呼吸、特に閉塞性無呼吸により体に起こっている直接的な現象には以下があります。
- 酸素の低下、二酸化炭素の上昇
- 胸腔内が陰圧になる
酸素は低下し二酸化炭素は溜まる
睡眠時無呼吸の検査の結果をみると、酸素がどの程度低下しているかを知ることができます。呼吸するための気道が閉塞しているため、体は十分な酸素を肺まで取り込むことだできません。加えて体で作られた二酸化炭素を体の外にだすこともできません。
酸素の低下と二酸化炭素の上昇により、受容体の影響で交感神経が緊張します。それにより血管が反応し収縮します。通常、眠っている間に体は休息し血圧は低下します。閉塞性無呼吸があると、血圧は下がらずに逆に上がることもあります。閉塞性無呼吸は高血圧をもたらします。
交感神経の緊張は、脈拍を増やし不整脈を起こしやすくします。そして、高血圧は心臓に負担をかけます。
加えて緊張した交感神経の影響で、体の水分が溜まりやすくなります。それにより喉の周りにむくみがきて、より無呼吸が増悪することもあります。
閉塞性無呼吸による低酸素で交感神経が緊張する
交感神経とは?
交感神経は自律神経の一部です。ここでいう自律神経は、一般的に使われている”自律神経失調症”ではなく、体のいろいろな機能を自動で調整してくれる神経システムのことです。
【自律神経システムで調整される機能】
- 心臓
- 血圧
- 食物の消化・吸収
- 排尿
- 発汗
- その他
自律神経システムには、交感神経ともうひとつ副交感神経があり、お互いに拮抗する機能を持っています。
【交感神経が緊張した時の影響】
- 心臓:心拍数が増える・心臓が拍出する量が増える
- 肺:気管の筋肉が緩んで空気が通りやすくなる
- 消化管:消化のスピードが落ちる
- その他
通常は、活動的な状況では交感神経が活発となり上記のような反応となります。逆に、就寝中は副交感神経が活発となり、交感神経とは逆の反応を示します。
胸腔内(胸の内側)は陰圧になる
わたし達は息を吸う場合、胸郭(肋骨、胸骨や背骨などで囲まれた空間)が外向きに広がり、横隔膜が胸からお腹の方に下がることで肺を膨らませます。肺が膨らむと軌道を通って空気が入ってきます。息を吐く時はその逆になります。
閉塞性無呼吸があると、胸郭が広がり、横隔膜がお腹の方に下がって肺が膨らみますが、気道が閉塞しているため胸郭内が陰圧になります。
胸腔内が陰圧になると肺の受容体に影響を与え、交感神経を緊張させます。さらに、陰圧になることで心房を伸展させるような負担がかかります。
閉塞性無呼吸で胸腔内が陰圧になり、交感神経は緊張し心房に負荷がかかる
閉塞性無呼吸で心房細動になる理由
心房細動が発生し持続するメカニズムには、心房細動が始まるところに関与するトリガーと心房細動がとまりにくくなる不整脈器質とがあります(詳しくは、こちらをご覧ください)
心房細動のトリガー
このトリガーと不整脈器質が関与して、心房細動が起きたり続いたいするわけです。
ここまで説明した通り、閉塞性無呼吸は酸素は低下、二酸化炭素は上昇し、胸腔が陰圧になることの影響で交感神経の緊張と心房に対する影響があります。それらがトリガーと不整脈器質に影響します。
閉塞性無呼吸が心房細動に及ぼす影響を、急性の反応と慢性的な影響の二つに分けて考えます。
- 無呼吸による急性の反応で、心房細動のきっかけ(トリガー)が発生する
- 慢性的な睡眠時無呼吸で、心房に負担がかかり続け心房が拡大したり、心房の筋肉が線維化することで心房細動が起きやすく止まりにくくなる
閉塞性無呼吸があると、心房細動トリガーが発生しやすくなり、不整脈器質が形成されることで心房細動が止まりにくくなる
閉塞性無呼吸による急性の反応
閉塞性無呼吸による低酸素や胸腔内の陰圧は、交感神経の緊張を介して心房細動のトリガーを起こしやすくします。
つまり、睡眠時無呼吸により眠っている間に動悸を感じたり、不整脈がでやすくなります。夜間の動悸は、無呼吸のせいかもしれません。
一方で、閉塞性無呼吸により良質な睡眠が取れていないことも交感神経の緊張に影響を与えます。つまり、交感神経が一日中緊張している状態であり、トリガーはいつ発火してもおかしくありません。
睡眠時の無呼吸が原因でも、一日中心房細動は発生するリスクがあります。
閉塞性無呼吸による慢性的な影響
心房の構造的な変化と電気的な変化が合わさって不整脈器質となり、心房細動は維持されやすく自然に止まりにくくなっていきます。
長期的に閉塞性無呼吸があると、血圧上昇や心房への負担上昇が心房を変化させます。具体的には、左心房が拡大したり、心房の筋肉が減少し線維化してしまいます。
加えて、交感神経の緊張などが影響し心房の筋肉の電気的な性質が変化してしまうと言われています。
睡眠時無呼吸を治療することの意味
閉塞性無呼吸に対するCPAP治療の効果
重症の閉塞性無呼吸がある場合、CPAP治療が適応となります。
CPAPは、睡眠中の異常な呼吸エピソードを減少することができます。それにより、睡眠時無呼吸による症状の改善と、無呼吸によって起こりうる問題を改善させることができます。
CPAP治療の効果
睡眠時無呼吸による症状を改善
- 睡眠の質が向上す
- いびきが減る
- 昼間の眠気が改善
- 気分が良くなる
無呼吸により起こりうる問題を改善させる
- 不整脈が減る
- 高血圧を改善
- 脳卒中のリスクを減らす
- 記憶力を向上させる
- 認知能力を向上させる
CPAP治療が心房細動に与える影響
これまで述べたように閉塞性無呼吸は心房細動の発生・維持に関与しています。CPAP治療をすれば心房細動はよくなるのでしょうか。
これまでのデータからわかっていることは、閉塞性無呼吸がある方はない方と比較して、心房細動の再発(電気的除細動後、アブレーション治療後)が多いことがわかっています。一方で、CPAP治療をすることで、心房細動の再発が有意に減ることも示されています。
心房細動を治療する上で、閉塞性無呼吸は無視できず、しっかりと治療を行うことが必要であると言えます。
睡眠時無呼吸症候群の問題は心房細動だけではない
閉塞性無呼吸は心房細動を引き起こすだけではなく、以下のような合併症が懸念されます。
- 運転中の急な眠気:運転中の事故はOSAがある患者にとって重大な問題です。特に前兆もなく急に眠ってしまうことがあります。
特に長距離運転や職業運転手の方は、少しでもOSAを疑ったら、きちんと検査をして治療を受けましょう。 - 心血管疾患:OSAにより、高血圧のコントロールが難しくなったり、心房細動などの不整脈が発生しやすくなります。また、冠動脈疾患(狭心症や心筋梗塞)、心不全、脳梗塞と関連があるとされています。
- 精神的な不安定さ:睡眠不足は多くに精神的な問題を惹起します。OSAは、過敏性、うつ病、不安症などとの関連が指摘されています。また、注意力の低下、記憶障害などによりエラーが発生する可能性があがります。
- 糖尿病:OSAの人は、メタボリックシンドロームや2型糖尿病の可能性が高くなります。
- 非アルコール性脂肪肝疾患:非アルコール性脂肪肝疾患は、アルコールとは無関係に肝臓に脂肪が蓄積する状態です。OSAがあると、非アルコール性脂肪肝疾患のリスクがあがります。
つまり、閉塞性無呼吸がある場合、アブレーション治療にて心房細動を良くすることがゴールではありません。無呼吸の治療もしっかり行わないと、健康的な状態を維持することができなくなる可能性があります。
心房細動をきっかけに睡眠時無呼吸症候群が見つかる人は少なくありません。しっかりと、睡眠時無呼吸症候群の治療も行いましょう。