心室細動とは
心室細動は心室内で高頻度かつ不規則な電気信号が発生し、心臓のポンプ機能が停止する致死的な不整脈です。
心室細動の特徴は、
- 致死的な不整脈
- 心臓の病気で高度に心機能が低下した方に起こりやすい。急性心筋梗塞に合併することもあります。
- 緊急で心肺蘇生、電気ショックの治療が必要
心室細動の症状
意識消失・心肺停止
心室細動が発生したら、脳には酸素が伝わらなくなるためわずか数秒間で意識がなくなります。
心臓のポンプ機能が破綻し、いわゆる心肺停止状態になります。
すぐに対応しなければ、数分間で死に至ります。心臓突然死と呼びます。
心配蘇生後の合併症:低酸素脳症
心臓が止まった状態が続くと脳が重篤なダメージを受けます。
心室細動になり心肺蘇生を行わない場合、3分間を過ぎたあたりから、脳は非可逆的なダメージを受け始めます。低酸素脳症と言います。
心室細動が止まっても、低酸素脳症により高度の障害が残ったり、脳死の状態になることもあります。
脳が酸欠にならないように、心室細動が発生したらできるだけ素早く心肺蘇生を行う必要があります。
心室細動の電気信号と心電図
波形は乱れ、大小の揺れを認めるのみです。正常のP波、QRS波形は認めません。
「細動型不整脈」が心室で発生
心室の中を高頻度でランダムな電気信号が発生しています。
心室細動の原因は?
心室細動が発生する要因として、以下のことが挙げられます。
- 心筋への血流低下(心筋虚血)
- 心筋のダメージ(心筋梗塞などによる)
- 心筋症(肥大型心筋症、拡張型心筋症などの心筋の病気)
- 薬剤性
- 敗血症(重症の全身感染症)
- 感電事故
- 心筋梗塞や狭心症
- 先天性心疾患
- 心臓手術
- 血液中のカリウム濃度異常
- 遺伝性不整脈(先天性QT延長症候群、ブルガダ症候群など)
心筋梗塞や心筋症といった心臓の病気に合併する場合と元々心臓の病気がないにも関わらず心室細動が発症する場合(遺伝性)があります。
遺伝性心室細動
特に心臓疾患が指摘されたことのない方に心室細動が発生することがあります。その原因として、遺伝子異常が関わっている可能性が指摘されています。
- ブルガダ症候群
- 早期再分極症候群
- 先天性QT延長症候群
- カテコラミン感受性多形性心室頻拍
- 不整脈原性右室心筋症 など
治療は心室細動の治療に準じます。一度でも心室細動を認めた場合は植込み型除細動器植込み術の適応になります。
心室細動の治療は?
心室細動の治療は、急性期の治療と慢性期の治療に分けて考えます。
急性期の治療
心肺停止(意識がなく、呼吸、心拍が停止している状態)の患者さんを見た場合、いかのような対応を行います。
- 心肺蘇生(特に胸骨圧迫)を開始し、電気ショックを行います。
- 病院以外で発生した場合は、胸骨圧迫しながら救急要請し、近くにAEDがあれば使用します。
- 院外であれば、救急病院へ搬送します。
- 心室細動になった原因を検索し、対応可能なものに対して介入します。
- 心肺蘇生(CPR;Cardiopulmonary Resuscitation)
心臓を外から押すことで、血液を全身に(特に脳に)送る手助けをします。
胸の真ん中がしっかり沈むくらい体重をかけます。
1分間に100〜120回のリズムで押し下げます。押し下げた後は、しっかり胸が上がるまで緩めます。
AEDが利用可能になるか、救急隊が到着するまでCPRを継続してください。
- 電気的除細動・AED
病院外の心肺停止であればAEDを使用して、体外から強い電気刺激を加えます。
AEDが利用可能になったらすぐに装着し、指示に従います。
AEDは心室細動を認識し必要と判断した場合にのみ、ショックを施すボタンを押すように指示がでます。
AEDで電気ショックを施したら、心肺蘇生を再開します。
体動があったり、声が出るようなら心肺蘇生を一旦中止します。
急性期の治療中に並行して行うこと
- 原因の検索を急ぐ:急性心筋梗塞を疑う場合、緊急の冠動脈造影を行い必要に応じて経皮的冠動脈形成術を行います。電解質異常があれば、補正します。
- 脳を保護する:低酸素脳症の発生を疑う場合、低体温療法にて脳を保護することもあります。
- 薬物療法:急性期に心室頻拍が再発しないよう薬物療法を行います。点滴で投与します。
慢性期の治療
心室細動が再発すると、次は命が助からない可能性があります。再発しないようにする治療と再発したときのための治療があります。
心室細動が再発しないようにする治療
再発しないようにするための治療として、薬剤による治療とアブレーション治療があります。
- 抗不整脈薬
不整脈が起きにくくする薬です。副作用にも注意が必要です。
- アブレーション治療
アブレーション治療が有効とされるタイプの心室細動では、アブレーション治療を行われることもあります。心室細動のアブレーション治療には高度な技術が要求されます。再発率は低くはありません。
心室細動が再発した時のための治療
もし心室細動が再発したら、すぐに電気ショック治療を施してくれる医療機器を考慮します。心室細動は、起きたらすぐに治療した方が止まりやすいです。
- 植込み型除細動器(ICD)
心室細動を繰り返すリスクがある場合は、植込み型除細動器植込み術が選択されます。
体内に植込むタイプの除細動器です。
自動で不整脈を検知し、自動で治療を行います。体内に植込む手術が必要です。
命に関わりそうな重篤な心室性不整脈を起こしたことがある方、または起こる可能性が高いと判断された方が適応になります。
- 着衣型除細動器
除外できる原因のせいで心室細動になった場合、しばらく様子を見るために着衣型除細動器を使用することがあります。
着るタイプの除細動器です。
患者さんの心電図を監視し、重篤な不整脈を検出した場合に電気ショックを行います。着用型であり、手術は不要です。
使用期間は3ヶ月間と限定されています。その間に、心臓の治療を行います。心臓の機能や不整脈の改善がなければ、ICDを植え込みます。ICD適応評価までの治療です。
ライフスタイルの見直しを
不整脈はライフスタイルの乱れなどで発生しやすくなります。ライフスタイルを見直すことで、再発を予防します。
- バランス良い食事
飽和脂肪酸やトランス脂肪酸が少なく、果物、野菜、全粒穀物が豊富な食事を心がけましょう。発酵食品も良いかもしれません。
- 適度な運動と健康的な体重を維持
息が上らない程度の持続的な運動(有酸素運動)を可能であれば、30分間行うことを目標にしましょう。
肥満は多くの心臓病や生活習慣病のリスクを高めます。
- 血圧やコレステロールのコントロール
高血圧や高コレステロール値は、心臓病のリスクを上げます。心臓の負担を取るためにもライフスタイルの見直しに努めましょう。
- ストレスのコントロール
精神的および身体的ストレスは、不整脈を増やし心臓に悪い影響を与えます。不必要なストレスを避けるように心がけましょう。
瞑想やヨガなども効果があるでしょう。
- アルコールを制限
アルコールと不整脈は強く関係しています。不整脈を持っている方は、アルコールはできるだけ摂取しないほうが良いとされています。
- 禁煙
喫煙習慣も心臓への負担を増やし、不整脈に影響します。禁煙を強く勧めます。
近くの禁煙外来をしているクリニックに相談してもよいでしょう。
- 睡眠時無呼吸症候群の評価を
睡眠時無呼吸症候群は不整脈の原因となります。さらに不整脈以外にも、多くの病気の原因になります。
いびきや睡眠中の無呼吸が指摘されたことがあれば、一度は必ず検査を受けましょう。重症度に応じてCPAP治療などを行います。きちんと治療をしないと予後が悪いこともわかっています。