ペースメーカーの種類
現在、ペースメーカーは以前から使用されている通常のペースメーカーとリードのないリードレスペースメーカーがあります。ここではその違いについて解説します。
- 通常のペースメーカー(経静脈または心筋電極)
- リードレスペースメーカー
通常のペースメーカー
ペースメーカー本体とペーシングリード(リード)からなります。
本体は前胸部の皮下に留置されることが多く、鎖骨の裏にある静脈からリードが挿入されます。リードは心房と心室に1本ずつ留置されます。心室だけに留置することもあります。
心臓手術の際に心臓の外側に電極(心筋電極)を縫い付け、本体と接続することもあります。
リードレスペースメーカー
ペースメーカー本体のみで作動します。
右心室に直接留置します。リードはありません。
“通常のペースメーカー”と比較して機能が限られます。
“通常のペースメーカー” の問題点
ペースメーカーは、機能がよくなり電池寿命も長くなってきました。しかし、解決できていない問題点がいくつか残っています。ペーシングリードによる問題と感染のリスクです。
ペーシングリードによる問題点
ペーシングリードを挿入し、長期間使用することで、問題が生じる可能性があります。必ず起こりうるものではなく、頻度も高くはありません。
手術時の合併症
静脈に穿刺をして、心臓にリードを装着します。その過程で起こりうる合併症があります。
- 気胸:リードを挿入する際に静脈を穿刺しますが、すぐ後ろにある肺に針が刺さるリスクがあります。肺に穴があくと、肺がしぼんでしまいます。その状態を気胸と言います。
- リードの位置移動:心筋に固定したリードがはずれて機能を果たせない状態。しっかりと心筋に固定し、胸側でもリード線をしっかりと結びつけます。が、それでもリード位置移動することがあります。
- 心筋の穿孔:リードが外れないように心筋にしっかりと固定しますが、押し付けすぎると心筋に穴が空いてしまいます。
長期的な問題点
- 静脈閉塞:鎖骨下静脈にリードを留置した状態になります。血流が低下し、静脈が閉塞するリスクがあります。特に透析患者さんでは、重大な問題と言えます。
- ペーシングリード損傷:長期間の使用によりリードが損傷することがあります(可能性は極めて低いですが)。
- 三尖弁閉鎖不全:リードは必ず三尖弁を通過して、右心房から右心室へ入ります。リードが三尖弁を押し下げてしまい、弁の機能が低下(血液の逆流)してしまうことがあります。
感染のリスク
通常のペースメーカーのもう一つの残された問題は、ペースメーカーポケット感染です。頻度は低いですが、発生するとやっかいな合併症の一つです。
ペースメーカーポケット感染
ペースメーカーの本体またはリードが感染(細菌がついて炎症を起こした状態)した場合は、本体及びリードを完全に取り除く必要があります。
ペースメーカー本体とリードを取り除く手術(システム全抜去)はリスクの高い手技になります。
リードレスペースメーカーについて
リードのないペースメーカーが使用できる様になりました。
リードレスペースメーカーはリードがないので、当然リードによるトラブルが起こりません!
本体自体が心臓の中(右心室)に留置されるので、感染のリスクも極めて低くなります。
リードレスペースメーカーの弱点
上記の合併症の観点からはメリットのあるリードレスペースメーカーですが、通常のペースメーカーと比較していくつかの弱点があります。
- 生理的なペーシングができにくい
- 心臓の詳細なモニタリング機能が使えない
- 両室ペーシングへの移行ができない
- 心穿孔のリスク
- 挿入できないことがある
- 何個まで留置できるのか?
生理的なペーシングができにくい
通常、心臓の電気信号は「心房→心室」の順番で伝わっています。電気信号に反応して心房が収縮し心室が収縮することで、心臓が効率よくポンプとして働けます。
通常のペースメーカーでは、心房と心室の情報を得ることができるので「心房→心室」の順番をコントロールすることができます。心臓が楽なリズムを維持します(生理的)。
リードレスペースメーカーでは、心室の情報から脈拍を調整します。そのため、心房との関連がうまくいかなくなります。(一部ではそれを補う機能がある)
心臓の詳細なモニタリング機能がない
通常のペースメーカーでは、心房の情報があるため心房細動などの上室性不整脈を検出することができます。そのほかにも、胸郭内インピーダンスなどの情報から患者さんの状態を推察する機能があります。
リードレスペースメーカーは右室の情報のみであり、それらの情報を得ることができません。
両室ペーシングへの移行ができない
ペースメーカー植込み患者さんは、心室のペーシングが原因で心臓の機能が低下することがあります。その際に、両室ペースメーカーへの移行を行うこともあります。両室ペースメーカーへ移行する際には、通常のペースメーカーであれば使用していたリードを使用し、追加のリードを挿入することで行います。
リードレスペースメーカーでは、新しくすべてのリードを挿入する必要があります。
心臓穿孔・心タンポナーデのリスク
リードレスペースメーカーを留置する際には、心室の壁に強く押し付ける必要があります。
そのため、心筋が損傷・穿孔する可能性があります。
心臓の外に血液が流出することで、心タンポナーデという状態になります。ポンプの機能が損なわれ、心のう穿刺や緊急手術が必要になることがあります。
リードレスペースメーカーの植込みでの心タンポナーデの発生率は1%よりも低いです。これは通常のペースメーカーでも起こり得ますが、リードレスペースメーカーでは命に関わる可能性が比較的高いようです。※1
※1: Heart Rhythm 2021;18:1132
挿入できないことがある
リードレスペースメーカー留置の成功率は99%とされていますが、ごくまれに留置できないことがあります。
リードレスペースメーカーは、太ももの付け根の静脈から挿入します。心臓に到達するまでの静脈が狭くなっていたり、高度に蛇行しているとペースメーカーを心臓まで運ぶことができないことがあります。
また、心臓の傾きや回転があり、既存のシステムでは安全にリードレスペースメーカーを留置できないこともあります。
何個まで留置できるのか?
右心室内に留置したリードレスペースメーカーの電池が消耗した際には、新しいリードレスペースメーカーを追加留置します。
それまで使用していたリードレスペースメーカーは留置したままの状態になります。
右心室に何個まで留置できるのでしょうか?
リードレスペースメーカーの電池が消耗した時は、通常のペースメーカーを入れることも考慮されるでしょう。
リードレスペースメーカーは、“通常のペースメーカー”で懸念されるいくつかの問題が起こりませんが、機能は制限されます。
リードレスペースメーカーの適応
2024年にアップデートされたガイドラインによるリードレスペースメーカの植え込み推奨が以下のようになりました。
2024 年 JCS/JHRS ガイドライン フォーカスアップデート版 「不整脈治療」より
適応 | 推奨クラス | エビデンスレベル |
---|---|---|
下記の条件を有する患者に対し、リード レスペースメーカの植込みを行う 1:感染リスクが高い 2:末期腎不全 3:デバイス感染の既往 4:先天性心疾患などで経静脈リードの植込みが難しい解剖学的原因がある 5:ステロイドや免疫抑制薬などの薬物治療中 6:放射線治療中 7:長期的血管内カテーテル留置中あるいはその既往 | I | B |
注意すべき項目
また、リードレスペースメーカー植込みの際に「心筋穿孔」などのリスクが高い症例は、術前に評価することが勧められています。
以下の項目に注意するように推奨されています。
- 高齢 85歳以上
- やせ(BMI 20kg/m2未満)
- 女性
- 心不全
- 陳旧性心筋梗塞
- 肺高血圧症
- 慢性閉塞性肺疾患
- 透析
“通常のペースメーカー” と リードレスペースメーカー の比較
2種類のペースメーカーを比較した表です。
通常のペースメーカー | リードレスペースメーカー | |
---|---|---|
本体の位置 | 通常は片側の胸部(鎖骨の少し下) 腹部に植え込むこともある | 心臓の中(右心室) |
見た目 | 傷ができる 植込み部が盛り上がっているのが見える | 心臓の中なのでわからない |
上肢の運動制限 | しばらく必要 | 不要 |
ポケット感染問題 | 感染などのリスク | ポケットがない |
ペーシングリード | 必要(多くは2本だが1本のことも) | 不要 |
リードの問題 | 起こりうる | 起こり得ない |
電池寿命 | 10年強 | 10年強 |
交換術 | 本体を交換する リードはそのまま使用 | 新しく追加する or 通常のペースメーカーを挿入 |
ペースメーカーの設定 | 心房と心室のタイミングを調整できる | 心室のみペーシング |
ペーシングする場所 | 右心房と右心室 | 右心室のみ |
静脈狭窄・閉塞 | 鎖骨下静脈の狭窄や閉塞のリスク | 起こらない |