アブレーション治療は不整脈を根治的に治療できる可能性のある治療法です。
アブレーション治療は比較的安全に治療できるカテーテル治療です。ただし、頻度は少ないですが合併症がおこる可能性があります。
アブレーションに伴う合併症を治療の過程ごと説明します。心房細動アブレーションは、通常の合併症にプラスして特有の合併症があります。
これまでの報告を参考に起こりうる頻度も併せて表示します。
参考資料:日本循環器学会 / 日本不整脈心電学会合同ガイドライン 2018 年改訂版 不整脈非薬物治療ガイドライン [https://www.j-circ.or.jp/cms/wp-content/uploads/2018/07/JCS2018_kurita_nogami.pdf]
血管への穿刺やカテーテル挿入に関する合併症
心臓にカテーテルを挿入するために、血管(静脈または動脈)に穿刺を行いシースと呼ばれる管を挿入します。シースを介してカテーテルを挿入し、血管の中を通って心臓まで到達します。その過程で起こりうる合併症です。
穿刺部の血腫・しこり
穿刺した皮膚の下に血液が溜まった状態を血腫(内出血)と言います。血管から漏れた血液が溜まっていますが、黒っぽくなったりしますが、次第に吸収されます。完全に消退するまで数週間かかることがあります。
同じ場所にしこりのようなものができることがありますが、こちらも次第に吸収されます。
頻度:1-5%
対応:小さくなって消えるまで様子を見る(2〜3週間程度)
血管合併症(動静脈ろう、仮性動脈瘤)
穿刺をした場所に動静脈ろう(動脈と静脈に交通ができて血液が流れてしまう)や仮性動脈瘤(動脈にできた穴から血液が漏れ続けて塊のようになってしまう)が生じることがありえます。
特に動脈に穿刺をする際は注意が必要です。
頻度:1%前後
予防:穿刺の際にエコーなどを使って正確に血管に穿刺することを心がけます。
血管合併症(血管損傷、動脈解離)
カテーテルを血管内に進入させて、心臓まで到達する間に血管を損傷するリスクがあります。
頻度:1%未満
予防:血管内でカテーテル進める場合は、慎重に操作します。
対応:疑った段階で血管外に血液が漏れていないかを確認します。また、大動脈の内側に傷がはいったら(解離になったら)、広がっていかないか慎重に経過を見る必要があります。
心臓内でのカテーテル操作による合併症
アブレーション治療を行うためにカテーテルを心臓の内側で操作します。そのためカテーテル操作による合併症が起こる可能性があります。
心タンポナーデ
カテーテル操作やアブレーション治療により心臓の壁が損傷される可能性があります。
損傷されたところから血液が心臓の外に漏れると心臓の周囲に血液が貯留します。貯まった血液は心臓の周りにとどまり、心臓を外から圧迫します。
心臓のポンプとしての機能が低下し、血圧が下がったり、対応がうまくいかないと命に関わる状態になる可能性があります。
頻度:1%前後
予防:心臓の中でカテーテルやシース、心房中隔穿刺で使用する針などを慎重に操作することで予防します。
対応:それでも心損傷が発症し、血圧が不安定になったりした場合は血圧を上げる点滴を投与したり、心のう穿刺などの対応を行います。損傷が大きい場合は緊急手術になる可能性もあります。
血栓塞栓症(脳梗塞など)
体内に入ったカテーテルなどに血液が反応して血栓ができたり、アブレーション治療の過程で血栓が形成される可能性があります。血栓が血流にそってどこかの動脈につまると塞栓症を起こします。
特に左心系(左心房や左心室)に対するアブレーション治療を行う際に注意が必要です。
脳梗塞になった場合は、後遺症を残すことがあります。
頻度:1%未満
予防:血栓形成を予防するため、抗凝固剤を適切に投与し管理します。血液の固まりにくさを検査しながら、抗凝固薬を適宜調整します。
対応:脳梗塞を疑うような症状(麻痺や意識障害、視野異常など)を認めた場合は、画像検査(頭部CTやMRI)にて検査を行います。血栓の状態によって、詰まった血栓を回収する方法をおこなったり、血栓を薬で溶かすような治療を選択する場合もあります。
心臓の弁損傷
カテーテル操作やアブレーション治療により、心房の弁が損傷する可能性があります。弁は血液が一方通行で流れていくように、逆流を防ぐ構造物です。心房と心室の間と心室の出口のところにあります。
弁が損傷すると弁逆流が起きます。程度によっては自覚症状がでたり、心不全になる可能性があります。
頻度:1%未満
予防:弁の近くでのカテーテル操作を慎重に行います。
対応:弁の問題が生じた場合は、定期的に心臓エコー検査などで進行しないかを定期的に検査します。悪化するようでしたら、外科的に弁に対する治療を検討します。
空気塞栓
カテーテルを挿入するためのシースから空気が心臓内に入ると、全身に散布されて空気により動脈の血流が途絶することがあります。
頻度:1%未満
予防:シースにカテーテルを挿入したり抜いたりするときに、シースないに空気が混入しないように慎重に操作する。
対応:空気による塞栓症状を認めた場合は、画像検査による評価を行います。程度により対応が変わります。
アブレーション治療による合併症
アブレーション治療したことで発生する可能性がある合併症です。
他の不整脈の出現
アブレーションにより以下のような不整脈が出現する場合があります。
頻度:1%未満
起こりうる不整脈と対応
房室ブロック | 発作性上室頻拍のアブレーションの際に、房室結節に影響して房室ブロックになることがあります。自然に回復することもありますが、回復しない場合はペースメーカー治療が必要となります。 |
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洞不全症候群 | 心房細動や心房頻拍治療後に、洞不全症候群が顕在化することがあります。高度な徐脈が持続する場合は、ペースメーカー治療が必要となります。 |
心房頻拍 | 心房細動のアブレーション後に脈が速い心房頻拍として再発した場合は、再アブレーションや薬物療法の強化などを行います。 |
心外膜炎
アブレーション治療の影響で心臓の外側に炎症が生じることで発生します。胸の痛み(特に息を吸った時)や発熱を生じることがあります。
対応:数日間で改善しますが、症状に応じて解熱鎮痛薬などで対応します。
冠動脈狭窄
アブレーション治療による熱が心臓の外側にある冠動脈に波及することで、冠動脈が狭窄することがあります。完全に血流が途絶えると心筋梗塞になります。胸が痛くなったり、心室性不整脈がでたりします。
頻度:1%未満
予防:冠動脈が近いところでは治療する場所と冠動脈の場所を確認しながら治療をします。
対応:症状や心電図の変化があれば、冠動脈造影を行います。狭窄や閉塞があれば、血管を広げる薬やカテーテル治療を行います。
治療の過程で起こりうる合併症
造影剤による副作用
心臓の形態や冠動脈の位置を確認するために造影剤を使用することがあります。造影剤による副作用としては、アレルギー反応と腎障害に対する影響を注意します。
頻度:1%未満
- アレルギー反応
アレルギー反応の症状としては、皮疹、嘔気、呼吸不全や血圧低下などがあります。まれですが、重篤なアレルギー反応で呼吸不全や血圧低下となることがあります。
予防と対応:アレルギー体質の方は造影剤の使用を再検討します。アレルギー反応が出た場合は、アレルギーに対する治療を行います。
- 腎機能障害の増悪
腎機能が低下している方では、造影剤の使用でより増悪することがあります。
予防と対応:腎機能が非常に低下している場合は、造影剤の使用を再検討します。腎機能が低下しないように点滴を行う場合があります。
放射線による障害
長時間の放射線被曝により皮膚炎を起こすことがあります。
頻度:1%未満
予防:放射線をできるだけ使用しないように努めます。最近では、3次元マッピングシステムを使用することで、放射線の使用頻度は減少しています。
下肢静脈血栓症(深部静脈血栓症)、肺塞栓
安静により足の太い静脈の血流が低下することで、血液の塊(血栓)により疼痛や腫脹を伴います。
血栓が剥がれ、流れていくと肺動脈に詰まることがあります。肺塞栓と呼びます、胸痛や呼吸苦を伴います。
頻度:1%未満
予防:血栓ができるのを予防するため安静の時間をできるだけ短くします。
対応:足のむくみや痛みを感じたら、血栓ができていないかを画像検査で確認します。血栓ができてしまったら、血栓を溶かす治療を行います。重症の肺塞栓となった場合に、外科的治療を行う可能性があります。
心房細動アブレーションで注意すべき合併症
一般的なアブレーション治療の合併症に加え、心房細動アブレーションではいくつかの注意すべき合併症が追加されます。
- アブレーションによる心臓周囲への影響:左房食道ろう、胃拡張、横隔膜麻痺、肺静脈狭窄・閉塞
- 心房細動に関連した他の不整脈の出現:徐脈・頻脈の出現
左房食道ろう
左房食道ろうとは、左心房と食道に穴が開いてつながった状態のことです。
左房側からの通電で食道に炎症ができることがあります。その炎症がただれていくと、食道と左心房をつなぐ穴が空いてしまうことがあります。
その穴から、食道に血液が出てきたり、左心房に空気が入って全身の空気塞栓になる可能性があります。
頻度:1%未満
予防:食道近くでは、過度にダメージを与えないように注意してアブレーションします。
食道の炎症を増悪させる要因の一つが胃液です。1ヶ月間は胃酸を抑える薬を内服していただきます。さらに、胃液が上がってこないよう満腹の回避(腹八分目)を心がけてください。刺激物や飲酒も制限しています。
対応:胸痛や意識障害があった場合、左房食道ろうが発生している可能性があります。CTなどで確認します。外科的治療が必要となる場合があります。
この合併症は退院後に徐々に悪化していくものです。退院後の自己管理を徹底して、合併症が発生する確率を下げましょう。
胃拡張
通常、食事をして胃に食べ物が入ると胃が膨らみ、その刺激が脳に伝わって、脳から胃を動かすように信号が出ます。その信号により胃が動くことで小腸へ食べたものが押し出されます。信号は神経を介して伝わります。
胃を動かす信号を伝える神経は食道の周りにあります。左心房の後ろへのアブレーション治療で胃を動かす神経が影響を受けることがあります。
信号が伝わらずに胃が動かないので、食べたものが胃に貯留します。むかむかして吐いたり、お腹が張った感じが続きます。数日間で症状として改善することが多いですが、完全に正常に反応するまで数ヶ月かかることもあります。
頻度:1%未満
予防:食道近くでは、過度にダメージを与えないように注意してアブレーションします。
対応:症状が出た場合は、消化の良いものを摂取しながら改善するのを待ちます。胃の動きを改善させるような薬を内服する場合もあります。
横隔膜麻痺
心臓の周囲には横隔膜が動くように信号を送る神経(横隔神経)もあります。アブレーション治療の影響でこの横隔神経が影響を受けると横隔膜の動きが落ちます。
息を吸ったときに横隔膜が下がらなくなります。
左右別々の横隔神経で支配されているので、片方の横隔膜の動きが悪くても症状がでることは少ないです。
頻度:1%未満
予防:横隔神経が周りにあることが推定される場所での過度なアブレーション治療を避けます。
対応:発症した場合、数ヶ月間の経過で回復することがほとんどです。経過を見ることになります。
肺静脈狭窄・閉塞
アブレーション治療の影響で肺静脈が狭窄もしくは閉塞することです。
アブレーション治療で生じたやけどが治る過程で、肺静脈が縮んでいき生じます。治療した後に徐々に狭窄していきます。数ヶ月単位で生じるとされています。
完全に閉塞すると肺から心臓に到達する経路が断たれます。肺で血液が滞ることになります。部分的な肺うっ血の状態になり、胸痛、息切れや血痰を生じることがあります。
予防:完全に予防する方法は確立していませんが、左心房と肺静脈の間でのアブレーション治療はできるだけ左心房よりで行うことを心がけます。
対応:肺静脈の閉塞が発生した場合は、閉塞した場所を広げる治療を行います。通常、カテーテルにて風船治療やステント治療で対応されます。
他の不整脈の出現
- 心房細動や心房粗動治療後に、洞不全症候群が顕在化してペースメーカー治療が必要
- 心房細動のアブレーション後に心房頻拍として再発した場合は、再アブレーションや薬物療法の強化などを行います。