心房細動のアブレーション治療

心房細動が発生する仕組み

心房細動に対するアブレーションの治療戦略を知るには、まずは心房細動の発生と維持の仕組みを知りましょう。心房細動の発生にはトリガーが重要です。トリガーと呼ばれる異常電気興奮で発生した心房細動はいずれ自然に止まります。しかし、発生した心房細動がなかなか止まらなくなることもあります。心房細動が止まりにくい理由もわかっている範囲で説明します。

  • トリガー:心房細動のきっかけとなる異常な電気興奮
  • 心房細動が止まりにくい理由:不整脈が維持されやすい(止まりにくい)ように変化した状態

トリガー(心房細動が始まるきっかけ)について

心房細動は心房内の至る所で電気信号がランダムかつ高頻度に発生したり消えたりします。混沌とした電気信号により、心房はぶるぶるとけいれんしています。この状態を細動と呼びます。

トリガーから心房細動へ移行する

この細動状態が発生するにはきっかけが必要です。心房細動の場合、そのきっかけはトリガーと呼ばれる異常な電気興奮です。

通常、電気が発生する場所は右心房の洞結節です。

心房細動は洞結節以外の場所から発生した異常な電気興奮がきっかけとなり生じます。異常な電気興奮により心房全体の電気が乱れた状態になります。

心房細動につながる異常な電気興奮をトリガーと呼びます。

トリガーが発生しやすい場所は肺静脈

心房細動のトリガー発生部位を検討した研究:94%は肺静脈起源

心房細動のきっかけとなるトリガーは心房全体のいろいろな場所から発生します。1998年にフランスからの報告で、心房細動の起源となるトリガーの多く(94%)は肺静脈から発生していることが報告されました(N Engl J Med 1998;339:659)。

それまで心房細動の治療は薬物療法で行われていましたが、この報告をきっかけに心房細動を抑えこむにはトリガーに対する治療が行われるようになりました。その後、知識は深まり、技術・道具の進歩があり、心房細動の抑止にアブレーション治療が効果的であることが広く知られることになりました。

肺静脈はどこに?

心房細動の始まりに肺静脈が重要であることがわかりました。それでは、肺静脈はどこにあるのでしょうか。肺静脈は肺と左心房をつなぐ血管です。肺で酸素が豊富に含まれた血液を左心房に送る大事な血管です。血液は左心房から左心室へ到達し全身へ送り出されます。

なぜ肺静脈からトリガーが?

肺静脈は血管なので通常は電気信号が発生することはありません。しかし、左心房側から肺静脈の中へ心房の筋肉が入り込んでいます。この左心房と肺静脈を繋いでいる組織が電気的に不安定でトリガーを発生しているようです。

左心房と肺静脈が接続している場所を拡大した図です。

心房の方から肺静脈へ筋線維が入り込んでいます。その辺りがトリガーが発生しやすい場所になります。

心房細動が止まりにくい理由

トリガーによって発生した心房細動は、健康な心房であれば長く続かずに自然に止まります。しかし、心房細動が一度始まるとなかなか止まらないこともあります。心房細動が止まりにくい理由はいくつかあります。

  • トリガーが次から次へと発生する
  • 心房の変化により止まりにくくなっている
  • 長期間持続することますます止まりにくくなる

基本の肺静脈隔離術

心房細動のアブレーション治療で最も重要な目的は、「トリガー」を抑え込むことです。肺静脈で発生した異常な電気興奮が左心房に伝わらなければ、心房細動にはなりません。

しかもそのトリガーのほとんどは肺静脈起源です。つまり最も重要な治療のターゲットは肺静脈ということになります。

肺静脈隔離術

左心房と肺静脈の間で電気が通らないようになれば、肺静脈起源のトリガーによる心房細動が始まりませんアブレーション治療により、肺静脈と左心房の間にやけどを作ります。このような治療を肺静脈隔離術と言います。

肺静脈隔離術を行う方法

肺静脈隔離術を行う方法がいくつかあります。どの方法を使ったとしても、目的は肺静脈と左心房の間に電気が通らないすることです。

  • 高周波通電による肺静脈隔離術
  • バルーンを使用した肺静脈隔離術(冷凍凝固バルーン、ホットバルーン、レーザーバルーン)
  • 外科的な肺静脈隔離術(心臓手術時に同時に行われる)

高周波通電による肺静脈隔離

治療用バルーンを使用した肺静脈隔離

どの方法で治療するかは、主治医にご確認ください。

肺静脈隔離術以外のアブレーション治療

肺静脈隔離術以外の治療

肺静脈隔離術だけで多くの心房細動は治療することが可能ですが、ほかの治療も追加で行う必要がある場合があります。

  • 肺静脈以外の場所からトリガーが発生
  • 心房細動以外の不整脈が合併
  • 心房の不整脈器質の治療が必要と判断

肺静脈以外の場所からトリガーが発生

心房細動のトリガーのほとんどが肺静脈から発生していますが、他の場所からトリガーが発生することもあります。他から発生するかを誘発試験を行なって確認します。誘発は心臓の電気興奮を活発にさせる注射の薬(イソプロテレノールなど)を使用します。

肺静脈以外を起源とするトリガーが生じた場合は、可能な限り発生源を特定してアブレーション治療を行います。

心房細動以外の不整脈が合併

心房細動に関連していくつかの心房性不整脈が合併することがあります。

  • 心房粗動
  • 心房頻拍
  • 発作性上室頻拍 など

このような不整脈をプログラム刺激(速いタイミングで電気を流したり、いろいろなタイミングで電気を流してみる)で誘発してみます。元々心電図で記録されていたり、プログラム刺激で誘発されたりした場合は、きちんと診断し治療を追加します。その際には、3次元マッピングシステムを使います。それにより不整脈が心臓のどの部分でどのように起こっているかを迅速に確認することができます。

それぞれの不整脈に応じたアブレーション治療を行います。

心房の不整脈器質の治療が必要と判断

心房の不整脈器質はいくつかの方法で確認されます。

  • 心房筋の電位異常を指標に
  • 連続する複雑な電位を指標に
  • 左房の後壁を電気的に隔離する  など

心房筋の電位異常を確認するためによく用いられるのは3次元マッピングシステムを用いた電位マップです。電位マップの結果から、不整脈器質に対する追加の治療が必要と判断された場合に行われます。

心房細動アブレーションについて

準備

アブレーション治療直前の準備

  1. 点滴ルートの確保:前腕に静脈路を確保します。
  2. 尿道カテーテルは挿入する場合としない場合があります。主治医に確認してください。
  3. 検査着に着替えます。
  4. 直前の食事は摂らないようにします。

カテーテル治療室へ

カテーテルの台に仰向けで寝ます。心電図や三次元マッピング用のパッチなどを体に貼っていきます。針を刺す場所に消毒を行い、体の上に清潔なシーツをかけます。鎮静を行う場合は、鎮静薬の投与を開始していきます。尿道カテーテルを鎮静して挿入する場合は、このタイミングで行います。

麻酔

心房細動のアブレーションは痛みを伴いますので、局所麻酔と鎮静(鎮痛薬や鎮静薬を使用)による麻酔を並行して行います。

  • 局所麻酔:血管内にカテーテルを挿入する場所(そけい部;足の付け根や首の付け根または腕)に局所麻酔を行います。
  • 鎮静:治療中に鎮静を行う場合は、静脈麻酔や全身麻酔を行います。

カテーテルの挿入

シースと呼ばれる細いチューブを皮膚から血管内に挿入します。このシースを通してカテーテルを血管内に挿入することができます。シースは、主にそけい部(足の付け根)の静脈や動脈、首の付け根の静脈に挿入します。腕の血管から挿入することもあります。電極カテーテル(心臓内の電気情報を取得する)をシースを通して、血管を通って心臓に到達させ所定の場所に配置します。

治療の場所は左心房と肺静脈の間なので、治療用のカテーテルを左心房へ到達させる必要があります。そのため、心房中隔アプローチを行います。

心房中隔アプローチ

右心房と左心房を隔てる心房中隔に穴を開ける方法心房中隔穿刺と言います。心房中隔には卵円窩と呼ばれる薄くて柔らかい膜の様な場所があります。そこに専用の針を使用して穴を開けます。静脈から右心房、そして心房中隔に作成した穴を通って、カテーテルを左心房や左心室に進めることができます。

心房細動の治療は心房中隔アプローチで行います。

穿刺針を卵円窩に押し付ける
シースを左心房内へ挿入
カテーテルを左心房へ挿入

治療にかかる時間

治療にかかる時間は、2〜3時間程度が一般的です。心房の状態や治療の内容によって変わります。心房細動のアブレーション治療は比較的リスクの高い手術であり、合併症に気をつけながら行われます。

治療による成功率

心房細動に対するアブレーション治療は、治療した直後に成功・不成功を決めることができません。大切なことは、治療後に心房細動の再発があるか、心房細動による問題があるか、を評価することです。

治療から3ヶ月、半年、1年・・・と経過し、心房細動が再発しない、心房細動による問題が起こっていない時にうまくいったと言えます。そのため、治療後も経過を見る必要があります。

最近では、8〜9割程度の患者さんでアブレーション治療後に心房細動の再発を認めない状態になります。

治療後

治療後はしばらく鎮静が効いています。シースを挿入した血管から出血がないように、数時間の安静があります。翌日からは普通に歩行が可能です。

心房細動の再発がないか、急性期の合併症がないか数日間観察します。問題なければ退院となります。

退院後は、心房細動の再発がないかしばらく外来にてフォローすることになります。

検脈による自己管理

心房細動アブレーション後の心房細動再発を知るためには、かかりつけ医への定期受診だけでは不十分です。高血圧の方が毎日血圧を測る様に、不整脈の患者さんは自分で脈を確認しましょう。自己管理が重要です。

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