血液の循環を制御する弁の不調:弁膜症について

この項は、日本循環器学会/日本胸部外科学会/日本血管外科学会/日本心臓血管外科学会合同ガイドライン 「2020年改訂版弁膜症治療のガイドライン」を参照しています。

コンテンツ

心臓弁膜症とは

心臓弁膜症では、心臓の1つ以上の弁が正常に機能していない状態を指します。

心臓雨には4つの弁があります。心臓の弁は血液の流れを一方向に保つために逆流防止する機能があり、心臓のポンプとしての機能をサポートしています。弁は開いたり閉じたりしていますが、弁膜症では弁の広がりが悪かったり、閉じが悪かったりする状況になります。

心臓弁膜症の治療は、障害を受けている弁の重症度などで異なります。進行した弁膜症では外科的な治療が必要な場合があります。

心臓の弁

心臓には4つの弁があります。

心臓には4つの部屋がありますが、それぞれの部屋の出口に逆流防止する弁があります。

この部屋の出口次の部屋
僧帽弁左心房左心室
大動脈弁左心室大動脈
三尖弁右心房右心室
肺動脈弁右心室肺動脈
血液の循環と弁
STEP
心房に血液が充満

心臓の中でも心房に血液が入ってきます。

右心房には全身の静脈から集まった血液が、左心房には肺から血液が充満します。

右心房の血液では、酸素が少なく二酸化炭素が多く含まれます。

左心房の血液は、酸素を多く含み二酸化炭素は少なめです。

STEP
心室が拡張

心室が拡張すると、心室と心房の間の弁が開きます。

左心室と左心房の間は僧帽弁、右心室と右心房の間は三尖弁と言います。

STEP
心房から心室へ

心室が拡張し、弁が開くと血液が心房から寝室へ流入します。

その間、大動脈弁と肺動脈弁は閉じています。

STEP
心室が収縮

心室が収縮すると、血液を送り出すために心室の出口にある弁が開きます。

左心室と大動脈の間は大動脈弁、右心室と肺動脈の間は肺動脈弁と言います。

STEP
心臓から血液を拍出

心室の収縮により血液が心臓から拍出されます。

右心室から肺へ、左心室から全身へ拍出されます。

心臓弁膜症の種類:狭窄と逆流

心臓弁膜症には弁の変化により「狭窄」と「逆流」があります。どの弁に変化がでるかで病名が変わります。「狭窄」と「逆流」が同時に起こることもあります。

弁の狭窄

弁の開きが悪くなっている状態です

血液を次の部屋に送り出す時に強い力が必要になります。

心臓に負担がかかります。

弁の逆流

弁の閉じが悪くなっている状態です

血液が前の部屋から逆流してきます。一方向で循環していたポンプとしての効率が落ちます。

心臓に負担がかかります。

弁膜症の種類

心臓には4つの弁がありそれぞれ閉鎖不全(逆流)と狭窄の変化による弁膜症があるため、弁膜症には以下のような種類があります。

逆流狭窄
僧帽弁僧帽弁閉鎖不全症僧帽弁狭窄症
大動脈弁大動脈弁閉鎖不全症大動脈弁狭窄症
三尖弁三尖弁閉鎖不全症三尖弁狭窄症
肺動脈弁肺動脈弁閉鎖不全症肺動脈弁狭窄症

心臓弁膜症の症状と原因

症状

軽度または中等度の弁膜症では自覚症状がないことが多いです。弁膜症が進行すると以下のような症状が見られます。

  • 胸の痛み
  • 脈が乱れることによる動悸
  • 疲れやすい
  • 息切れ
  • めまい
  • 血圧低下または上昇
  • 足のむくみ
  • 呼吸困難

弁膜症がさらに進行すると心不全になることがあります。上記のような症状のうちに診断をつけることが大事です。

弁膜症の原因は?

心臓弁の損傷の原因は、存在する疾患の種類によって異なり、以下が含まれる場合があります。

  • 加齢による弁の変化
  • 心筋梗塞や心筋症による心室の変化
  • 感染性心内膜炎
  • 先天的な問題
  • 梅毒
  • 高血圧
  • その他

僧帽弁と大動脈弁は、ほとんどの場合、心臓弁疾患の影響を受けます。より一般的な心臓弁疾患のいくつかは次のとおりです。

心臓弁膜症の検査

検査の基本は心エコー検査

弁膜症が疑われる場合の評価は、心エコー検査にて行われます。心エコーには経胸壁心エコー検査と経食道心エコー検査があります。

経胸壁心エコー検査

侵襲のない検査で、心臓の状態を確認することができます。

弁膜症の状態や心臓の機能、心不全の程度など多くの情報を得ることができます。

初期の診断や定期的なフォローでも使用されます。

心エコー検査で評価する項目
  • 逆流の評価
  • 狭窄の評価
  • 心機能の評価
  • 右室の評価、肺高血圧の評価
  • 負荷心エコー:運動や薬剤の負荷により弁膜症の程度が変化するかどうかを評価
経食道心エコー検査

胃カメラのように口からエコーのプローブを食道に進めます。心臓の後ろから心臓の状態を確認します。

鎮静を行います。

経胸壁心エコーで評価が不十分であったり、より詳細な検査が必要な時に行われます。

外科的手術前の評価としても使用されます。

そのほかの検査

心電図左室肥大の変化が見られます。
不整脈(心房細動など)の確認を行います。
心臓MRI心筋や心臓の状態を確認します。
逆流の程度を評価できます。
治療方針を決める際にも評価されます。
心臓CT心臓の形態を確認できます。
弁の性状(石灰化など)も確認できます。
心筋を栄養する血管(冠動脈)の狭窄なども確認できます。
心臓カテーテル検査心臓の形態を確認したり、弁膜症の重症度も評価されます。
心臓の内圧の評価を行います。
冠動脈の評価を行うことは、胸痛の鑑別に有用なことがあります。

心臓弁膜症の治療方針

心臓弁膜症は一時的な病気でなく、一度診断されたら付き合っていく必要がある病気になります。弁膜症は以下のように進行していくことが想定されます。

STEP
弁膜症のリスクがある

弁膜症を引き起こすリスクはあるが、弁膜症に至っていない

STEP
弁膜症の進行

軽度から中等度の弁膜症が発生しているが、自覚症状がない

STEP
症状のない重症

弁膜症は重度に進行しているものの、自覚症状がない

STEP
症状のある重症

弁膜症は重度で、自覚症状がある

心臓弁膜症の治療を決める際に判断する材料としては以下の項目が用いられます。

  • 自覚症状
  • 弁膜症の重症度(心エコー検査などで評価)
  • 弁膜症の増悪
  • 年齢

症状がなくても弁膜症を指摘された場合は、心エコー検査や自覚症状を定期的に評価する必要があります。その頻度としては以下のような間隔で評価することが勧められています。

症状のない弁膜症の心エコー検査の頻度

大動脈弁
狭窄
大動脈弁
閉鎖不全
僧帽弁
狭窄
僧帽弁
閉鎖不全
軽症3〜5年ごと
中等症1〜2年ごと
重症6〜12ヶ月ごと6〜12ヶ月ごと
※ 症例による
1年ごと6〜12ヶ月ごと
※ 症例による

弁膜症を進行させないために

弁膜症は進行しなければ、この後に続く侵襲的な治療を選択しなくても良くなるかもしれません。ただし、すでに症状がある場合はその限りではありません。

  • 健康的な食事をとる:塩分を控える、食物繊維を多く、肉を避けて魚に、全粒穀物を摂る、飽和脂肪酸を避ける
  • 体重を管理する・肥満を解消する
  • 適度な運動習慣を
  • 禁煙する
  • アルコールを控える
  • 良い睡眠を確保する
  • 血圧を管理する

歯科治療に注意

すでに弁膜症を持っている場合、歯科治療後に弁に菌が感染する可能性があります。弁に付着した菌は弁を破壊させ、重症の弁膜症に急激に進行することがあります。

併せて歯周病のケアも必要です。定期的にオーラルケアをしてもらいましょう。

薬物治療

弁膜症の進行を抑える薬はありませんが、弁膜症に伴って生じた問題に対する治療を行います。

  • 心不全:症状を緩和するための治療が行われます
  • 高血圧:血圧を適正に保つことは心臓の保護につながります
  • 心房細動:弁膜症に心房細動が合併することがあります。脳梗塞予防の抗凝固薬が処方されます。

それぞれの弁膜症によって多少内容が変わります。

非薬物治療

進行した弁膜症に対する最終的な治療は非薬物治療になります。

弁膜症に対する非薬物治療

  • 弁形成術
  • 弁置換術
  • カテーテル治療

どの方法を選択するかは、循環器内科や心臓血管外科などハートチームで検討し患者さんとその家族で相談して決めていきます。

弁形成術

問題となっている弁の一部を修復する手術で、自分の弁を継続して使用します。弁形成術に適した弁であるかは、手術前に慎重に検討されます。

弁が付着している部分をリング状に寄せること方法も併せて行われることがあります。

弁置換術

問題となっている弁を切り取って、新しい弁に入れ替える手術です。新しい弁は、機械弁と生体弁があります。耐久性や血栓の問題があるため、年齢や合併症の状況でどちらを選ぶか検討されます。

カテーテル治療

弁膜症に対するカテーテル治療が行われています。

  • バルーン大動脈弁形成術(BAV)
  • 経カテーテル的大動脈弁置換術(TAVI)
  • 経皮的僧帽弁クリップ術(MitraClip)

バルーン大動脈弁形成術は大動脈弁狭窄に対して、以前から行われています。バルーンにより拡張後に再度狭窄することも少なくありません。一時的な効果を期待して行われます。

経カテーテル的大動脈弁置換術は、大動脈弁狭窄症に対してカテーテルを用いて大動脈弁を置換する治療です。外科的な手術と比較して侵襲が低くなります。ただし、治療できる医療機関は限られています。

経皮的僧帽弁クリップ術は、僧帽弁閉鎖不全症に対してカテーテルを用いて僧帽弁をクリップで挟んで逆流を減らす治療です。TAVIと同様に治療できる施設が限られています。

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