肥大型心筋症とは-3:治療と管理

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肥大型心筋症の治療方針

肥大型心筋症の治療方針は、心筋症のタイプや心不全・不整脈の状態などにより違いがあります。

  1. 症状のない非閉塞性肥大型心筋症
  2. 症状のある非閉塞性肥大型心筋症
  3. 閉塞性肥大型心筋症
  4. 突然死のリスクがある場合
  5. 心房細動がある場合

症状のない非閉塞性肥大型心筋症

自覚症状のない非閉塞性肥大型心筋症に対して有効とされる薬物治療は確立されているものはありません。

合併症が発生していないか経過をみていくことになります。定期的な受診が必要です。

また、生活習慣病を含む併存疾患をきちんと管理します。

自覚症状のある非閉塞性肥大型心筋症

心臓の広がりが悪いことで生じる自覚症状(息切れなど)を自覚する場合は、左室駆出率が保たれているか低下しているかで薬物療法を選択していきます。

左室駆出率が保たれている場合(LVEF≥50%)

左室駆出率が保たれている非閉塞性肥大型心筋症には以下の薬物が選択されます。

  • β遮断薬
  • ベラパミル あるいは ジルチアゼム
  • 低用量の利尿剤

左室駆出率が低下している場合(LVEF<50%)

左室駆出率が低下している拡張相肥大型心筋症には以下の薬物が選択されます。

  • β遮断薬
  • ACE阻害薬 あるいは ARB
  • ミネラルコルチコイド受容体拮抗薬
  • 利尿剤

上記の薬物を使用しても、心機能低下により生じる心不全が改善しない場合は、補助人工心臓や心臓移植なども選択肢としてあげられます。

閉塞性肥大型心筋症

閉塞性肥大型心筋症・心室中部閉塞性心筋症は、肥大型心筋症のなかでも合併症が起きやすいグループになります。薬物療法として以下の薬剤が使用されます。

  • β遮断薬
  • ベラパミル
  • Naチャネル阻害薬(Ia群抗不整脈薬)

β遮断薬は心臓の収縮を落とすことで、左心室内の圧較差を小さくすることが期待されます。特にβ1選択性の高い薬が望ましく、少量から開始しできるだけ多くの用量まで増やします。血圧低下や徐脈に注意が必要です。

β遮断薬が使用しづらい場合は、ベラパミルの使用を考慮します。こちらを使用する場合も、できるだけ多い用量まで増やします。血圧低下や徐脈に注意が必要です。

血圧低下効果が強く出過ぎると、左心室内の圧較差が逆に増加する可能性があります。

Naチャネル遮断薬も心臓の収縮を落とす作用があるため、圧較差が低下する効果があります。ジソピラミドやシベンゾリンが良く使用されます。ただし、副作用として抗コリン作用(口が渇く、排尿障害など)や催不整脈作用があるため、認容性がないこともあります。心電図や薬の血中濃度測定を定期的に行います。

閉塞性肥大型心筋症の非薬物治療

閉塞性肥大型心筋症に対しては、薬物治療でも自覚症状や心不全がコントロールできない場合に非薬物治療が選択されます。

具体的には、閉塞基点となる肥大した心筋を外科的に切除する中隔心筋切除術と経皮的中隔心筋焼灼術(PTSMA)です。

突然死のリスクがある場合

肥大型心筋症の予後を悪くする一つの要因が突然死です。突然死の発生率は決して高くはありませんが、一部の患者さんではリスクが高い場合があります。

以下のような項目がある場合は、心臓突然死をきたす可能性が高いことが予測されます。

肥大型心筋症:突然死のハイリスク
  • 致死的不整脈(心室細動・心室頻拍)による心停止の既往
  • 持続性心室頻拍の既往
  • 半年以内の心臓が原因と考えられる または 原因不明の失神
  • 左心室の厚さが30mm以上
  • 突然死をした家族がいる
  • 非持続性心室頻拍(特に若い方)
  • 運動時の血圧反応異常
  • HCM Risk-SCD Calculatorでハイリスクに該当
HCM Risk-SCD Calculator

また、以下のような検査所見がある場合もリスクに含まれます。

肥大型心筋症:リスクの高い検査所見
  • 左室流出路狭窄
  • 心臓MRIにて広範囲な遅延造影
  • 拡張相肥大型心筋症
  • 心室瘤

心臓突然死のリスクが高いと判定された場合は、植え込みが除細動器(ICD)の植え込みが推奨されます。

心房細動がある場合

心筋が厚くなって広がりにくくなると、心房に負担がかかります。心房に負担がかかると心房細動や心房粗動・心房頻拍などの不整脈がでやすくなります。
心房細動の問題の一つが脳梗塞ですが、肥大型心筋症があると脳梗塞のリスクがあがることが考えられます。
また、頻脈になりやすく、心不全の原因の一つとなります。

脳梗塞予防として抗凝固薬が使用されます。また、心房細動自体には抗不整脈薬を用いたり、場合によってはアブレーション治療が選択されます。

日常生活の注意事項

過度な運動を制限する

肥大型心筋症の患者さんは、競技スポーツは禁止されます。特に突然死リスクが高い方は運動によるイベント発生に注意が必要です。

リスクが高くない場合は、適度な運動により健康な状態を維持することが勧められます。

心不全を有する場合は、主治医と相談して運動強度や運動量を決めましょう。

塩分と水分

他の心疾患と同様に塩分は控えましょう。一般的には、1日5g未満に制限することが勧められます。

心不全がある場合は、水分摂取量は制限されます。飲水量については主治医と相談しましょう。

肥大型心筋症は脱水による諸症状(気分不良、血圧低下など)が出やすいため、汗をいっぱいかくような水分喪失が多い場合にも注意が必要です。

アルコール制限する

アルコール摂取は多少は認められていますが、できるだけ飲まないにこしたことはありません。

また、アルコールは不整脈の原因となりえます。不整脈が発生することで、心不全が急に悪くなるがあります。アルコールの摂取で睡眠の質が低下することも懸念されます。

禁煙する

喫煙は電子タバコも含めて、心臓にとってかなりの悪影響を及ぼします。

喫煙はやめるべきです。禁煙するためのアドバイスやサポートのため禁煙外来に相談しても良いでしょう。

また、家族や友人にあなたをサポートしてもらうようお願いしてください。

予防接種と感染の予防

インフルエンザや肺炎に感染すると心不全の急激な増悪が起こることがあります。まずは手洗いなどの感染予防を徹底し、インフルエンザと肺炎球菌の予防接種を受けましょう。

肺炎球菌のワクチンは、65歳になると5年毎の接種が勧められています。しかし、心不全などがあり肺炎球菌の感染を予防したい場合も接種可能です。かかりつけ医にご相談ください。

性行為

性行為は心拍数や血圧が上昇するため、閉塞性肥大型心筋症のようにリスクが高い場合は注意が必要です。

妊娠・出産

リスクが低い場合は安全に妊娠および出産が可能とされています。しっかり管理をする必要がありますので、主治医に相談しましょう。

旅行・レジャー

過度に行動を制限する必要はありません。症状の状況や日頃の身体活動に応じて、旅行やレジャー活動を検討しましょう。ただし、旅行の計画が持ち上がったら、まずは主治医に相談しましょう。

長い時間移動する必要がある場合、移動手段としては飛行機よりも電車・新幹線の方が安心です。症状が強く出た場合に、途中で降りることができるからです。

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