このページは、日本循環器学会 / 日本心不全学会合同ガイドライン「心筋症診療ガイドライン(2018年改訂版)」を参考に作成しております。
肥大型心筋症の診断手順
肥大型心筋症は以下のような手順で診断されます。
心エコーや心臓MRI検査により測定された左心室の壁の厚さが15mm以上の「心肥大」がある。
家族で肥大型心筋症と診断されている場合は13mm以上で「心肥大あり」とされる。
高血圧などの心肥大につながる状態があったり、他の二次性心筋症を疑う所見がないかチェックする。詳細は別の項で説明。
下記のいずれを満たす場合に「肥大型心筋症」と診断されます。
- サルコメア遺伝子変異がある
- サルコメア遺伝子変異はないが、他の二次性心筋症は否定されている
- 遺伝子検査を行なっていないが、他の二次性心筋症は否定されている
肥大型心筋症の検査
肥大型心筋症を診断していく上で、いくつかの検査が必要になります。心臓の状態を調べたり、合併症の有無を確認します。
心臓の状態を見る検査
心エコー検査 | 心筋肥大の状態や以下のような項目を確認します。 心臓の形態(厚さや肥大している部位) 心室内の狭窄の有無 僧帽弁逆流の有無 左室駆出率 心房の大きさ など 負荷をかけてエコー所見の変化を見る場合もあります。 |
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心電図 | 左室肥大の変化が見られます。 不整脈(心房細動など)の確認を行います。 |
ホルター心電図 | 24時間の心電図を記録します。自覚していない不整脈(心房細動や心室頻拍など)を検出し、治療方針決定の材料にします。 |
心臓MRI | 心筋や心臓の状態を確認します。 造影剤を使用し、心筋が高度に障害されている部位を確認します。障害部位が広い場合は、危険な不整脈が出現するリスクが上がります。 |
運動負荷 | 運動中の失神は予後の判定に重要です。 運動負荷をすると通常は血圧があがりますが、あまり上がらなかったり、むしろ下がるようでは心臓突然死リスクが高いとされます。 |
心臓CT | 心臓の形態を確認できます。 心筋を栄養する血管の走行を確認できます。 |
心臓カテーテル検査 | 心臓の形態を確認したり、心臓内の狭窄による圧力の変化を確認できます。 冠動脈の評価を行うことは、胸痛の鑑別に有用なことがあります。 |
心筋生検 | 心筋の組織を切除して顕微鏡で見る検査です。 二次性心筋症の鑑別にも使用されます。 |
肥大型心筋症の遺伝子検査
肥大性心筋症は通常、心筋を厚くする遺伝子の変化によって引き起こされます。特にサルコメア遺伝子変異がよく知られています。
つまり、肥大性心筋症は遺伝性・家族性があります。片方の親が肥大性心筋症に罹患している場合、子が病気を引き起こす遺伝子を引き継いでいる可能性が50%になります。
肥大型心筋症の原因となる遺伝子変異はいくつかあります。遺伝子検査をすることで遺伝子の問題が特定されないこともありますが、特定された場合はご家族の罹患可能性についてある程度評価することができます。
ご家族にも同じ遺伝子変異が確認された場合は、肥大型心筋症がないか、心臓の変化がないかをフォローする必要があります。もし同じ変異が確認されなかった場合は、発症の可能性は低いと判断されます。
日本循環器学会 /日本心臓病学会 /日本小児循環器学会合同ガイドライン
2024 年改訂版「心臓血管疾患における遺伝学的検査と遺伝カウンセリングに関するガイドライン」を参照
二次性心筋症の鑑別
心肥大を呈する二次性心筋症を鑑別する必要があります。その理由は、心肥大にいたった原因によっては特異的な治療法が選択できる可能性があるためです。
肥大型心筋症と鑑別が必要な二次性心筋症
代謝異常 | 糖原病 脂質蓄積 ライソゾーム病:ファブリー病 |
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ミトコンドリア病 | MELAS病、MERFF病 |
神経筋疾患 | Friedreich失調症、FHL-I遺伝子異常 |
Malformation Syndoromes | Ras/MAPK関連蛋白異常 |
浸潤性疾患 | 心アミロイドーシス |
炎症性疾患 | 急性心筋炎 |
内分泌疾患 | 糖尿病罹患母体からの出生児 褐色細胞腫、巨人症 |
薬剤 | ステロイド、タクロリムス、ヒドロキシクロロキン |
なかでも比較的頻度が高く、治療方法が認められている「ファブリー病」と「心アミロイドーシス」について説明します。
ファブリー病
二次性心筋症の頻度が多くはありませんが、肥大型心筋症を鑑別する際に数%は紛れているとされています。なかでもファブリー病が頻度としては多いとされています。
原因 | GLA遺伝子変異によるα-ガラクトシダーゼの活性低下や欠損 |
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心臓以外の症状 | 感音性難聴 眼症状 四肢末端の痛み、無汗症 被殻血管腫 腎障害 |
診断 | 男性:血漿や白血球のα-ガラクトシダーゼ活性の測定 家族歴、遺伝子検査 |
治療 | 酵素補充療法 |
心アミロイドーシス
心筋にアミロイドと呼ばれる物質が沈着することで心筋肥大を起こし、やがて心筋の収縮力低下して心不全を繰り返すようになる疾患を心アミロイドーシスと言います。
アミロイドーシスは以下のように分類されます。
- ALアミロイドーシス:骨髄形質細胞の異常
- トランスサイレチン(TTR)アミロイドーシス
- TTR遺伝子変異による遺伝性ATTRアミロイドーシス
- TTR遺伝子変異がのない野生型ATTR
原因 | GLA遺伝子変異によるα-ガラクトシダーゼの活性低下や欠損 |
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心臓以外の症状 | 眼症状 手根管症候群 腎障害 |
診断 | 確定診断:心筋生検によるアミロイド沈着の証明 または、心筋生検はリスクが高いと判断される場合、心筋以外(腹壁脂肪や消化管粘膜)の生検でアミロイドの沈着を確認する ATTRアミロイドーシスは、ピロリン酸心筋シンチグラフィによるスクリーニングにてみつかることがあります TTRアミロイドーシスが疑われる場合、遺伝子検査が行われます。 |
治療 | ATTRアミロイドーシスに対しては、タファミジス(商品名 ビンダケル、ビンマック)が進行抑制に使用される |
肥大型心筋症の分類
肥大型心筋症は病型により以下のように分類されます。
- 閉塞性肥大型心筋症
左室から大動脈へ向かうあたりの肥大により血流が障害された状態。
安静または運動などの負荷により圧較差が30mmHg以上になるもの。
- 非閉塞性肥大型心筋症
安静時および負荷をしても左心室流出路の圧較差が30mmHg未満の場合
- 心室中部閉塞性心筋症
肥大により左室の中部に閉塞があり、そこに30mmHg以上の圧較差がある場合
- 心尖部肥大型心筋症
心尖部にのみ肥大を認める
- 拡張相肥大型心筋症
肥大型心筋症の経過により、肥大していた心筋の厚さは薄くなり、収縮力が低下し、左室の内腔が拡大した状態。
拡張型心筋症のようになる。