心不全の治療について:急性期から慢性期へ

心不全の治療は、症状が急激に増悪する急性期のフェーズ(急性心不全)と症状としては安定しているが心不全としては残存している慢性期のフェーズ(慢性心不全)に分けて考える必要があります。

急性心不全は症状を緩和しつつ、心不全の原因を探ります。すぐに解消すべき原因には、緊急で対応していきます。

慢性心不全は、解除できる原因がはっきりしている場合はそれに対して治療介入します。また、心臓を保護し長持ちさせるための薬物治療を行いながら、適応に応じて非薬物治療も併用します。

コンテンツ

急性心不全の治療:症状を緩和し原因を探る

急性心不全では、心不全による症状を緩和する治療を行います。そして、心不全に至った原因を探り対応します。

心不全の症状は、徐々に悪くなったり急に悪くなったります。急に心臓のポンプ機能が落ちて、心不全を発症した場合に「急性心不全」と診断されます。

急性心不全の治療で症状が改善しても、ポンプ機能が低下した状態が続いた状態は「慢性心不全」となります。慢性心不全の状態から、急に心不全症状が悪化した場合に「慢性心不全の急性増悪」と呼ばれます。

急性心不全のポイントは、心不全による「うっ血解除」、「ポンプ機能低下の補助」そして「心不全の原因検索と対処」になります。

心不全によるうっ血の解除

心不全になると水分が体に溜まりやすくなります。肺や体にうっ血することで以下のような症状がでます。

  • 肺がうっ血すると、咳が出たり、動いた時に息苦しくなります。さらに進行すると、臥位になると苦しくなったり、苦しくて夜目が覚めたりします。
  • 体がうっ血すると、体重が増え、お腹が張ったり、足や体、顔がむくんだりします。むくむことを浮腫(ふしゅ)といいます。

うっ血に対する治療

うっ血を取るための薬物治療として、血管拡張薬や利尿剤が使用されます。

  • 血管拡張薬:血管を広げることで心臓の負担をとったり、うっ血を低減させる効果
  • 利尿剤:体に貯留した余分な水分を体外に出すことでうっ血を解除します

薬物治療だけでは、十分な改善が得られない場合は透析装置を使用することがあります。

ポンプ機能低下の補助

ポンプの機能が落ちると、意識が低下したりめまいがしたりします。全身の組織に血液の供給が減ることで、疲れやすく感じたり、手足が冷えたりします。腎臓への血流が落ちると尿が減り、うっ血の症状へと繋がります。

ポンプ機能低下に対する治療

心臓のポンプとしての機能が低下している場合は、まず強心薬で心臓の残っている力を振り絞らせます。それでも、ポンプ不全が高度な場合は補助循環装置(大動脈内バルーンポンプ、ECMO)を使用します。

全身への循環を維持するための治療です。

心不全の原因検索と対処

心不全の急激な進行がある場合、原因を特定し対応することが求められます。

原因対処法
急性心筋梗塞疑われたら早急に血管造影が行われ、血流を回復させる治療(血管内治療、バイパス手術)が行われます。
高血圧による心不全血圧の上昇により発生する心不全は、血圧を下げることで改善することがあります。
不整脈による心不全不整脈により心不全が生じることがあります。頻脈が原因であれば、脈を抑える治療か正常のリズムを取り戻す治療(電気ショックなど)が行われます。
徐脈が原因であれば、ペースメーカーが考慮されます。
心筋炎心臓の筋肉に炎症がおこった状態です。劇症型と呼ばれる状態になると自分の心拍では循環が保てなくなるため、早急に補助循環装置が装着されます。
機械的合併症心筋梗塞に合併した弁膜症や心室中隔穿孔などや感染による弁の異常などで心不全が発症することがあります。
多くの場合、緊急で外科的治療が必要となります。

急性期から慢性期へ

急性心不全を切り抜けたら慢性期への移行へ進みます。以下に注意点を示します。

  • 心不全の原因と併存疾患を診断し、可能な治療を検討する
  • 心不全の症状を改善させたり、心臓の機能を回復を期待した薬物治療を強化する
  • 適応に応じて、植込み型除細動器、両室ペースメーカーの心臓植込み型デバイス治療を検討する
  • 心不全の自己管理について学ぶ

対応できる問題が心不全の原因であれば、それを取り除く治療を行います。例えば、心房細動に対するアブレーション治療、弁膜症に対する外科的治療(またはカテーテル治療)などの非薬物治療なども含まれます。

そして、最近では心不全に対する薬物治療の有効な選択肢が増えてきています。心不全の患者さんでは、心室性不整脈による心臓突然死が問題となることもあるため適応に応じて植込み型除細動器が検討されます。

加えて心不全の状態は自分で認識し、管理の方法を学び実践することも大事です。

心不全慢性期:うまくつき合って進行を遅らせる

慢性期の心不全では、心不全として進行するのを遅らせることが重要です。心不全とうまくつき合っていく方法を知り、実行してきます。心臓を保護する効果のある薬を飲んだり、薬以外の治療を考慮します。

食事や運動、服薬管理、体重測定など自分で管理することも重要です。

心臓を保護する薬

心不全の急性期を抜けたら薬物療法の導入と強化を行なっていきます。慢性期では症状を和らげる薬、心臓を保護して長持ちさせる薬や心臓のポンプ機能を助ける薬などが使われます。

左室駆出率が低下した心不全では、有効性が示された複数の種類の薬があります。

これらの薬を患者さんの状況に合わせて、組み合わせて使用されます。症状が改善し、心不全入院が減り、予後が改善することが期待されます。

左室駆出率低下の心不全に対する薬物治療

STEP
基本の薬

まずは以下の種類の薬が選択されます。それぞれ心機能が低下した心不全に対して心不全入院や予後を改善する効果が示された薬です。

STEP
ARNIへの切り替え

心不全の状態に応じて、ACE阻害薬(またはARB)からARNIへの切り替えを検討します。ARNIにも予後改善効果があることがわかっています。

STEP
SGLT2阻害薬の追加

基本の薬およびARNIの内服をしても、心不全症状がある場合に心不全の増悪や予後の改善を目的にSGLT2阻害薬の追加を検討します。

SGLT2阻害薬により心不全のコントロールが良くなることは多く経験します。

STEP
さらなる併用薬

さらに心不全の症状を安定させるために以下のような併用薬の追加を検討します。

  • Ifチャネル阻害薬
  • 利尿剤
  • 血管拡張薬

日本循環器学会/日本心不全学会合同ガイドライン
2021年 JCS/JHFS ガイドライン フォーカスアップデート版 急性・慢性心不全診療 を参照

上記の薬を症状や副作用に注意しながら調整していきます。それでも心不全症状が安定しない場合は、非薬物治療を検討していきます。

左室駆出率が保たれた心不全の薬物療法

左室駆出率が保たれた心不全の場合、予後の改善について明らかなエビデンスのある内服薬は示されていません。そのため、治療の目的は症状を改善させることになります。それには利尿剤が使用されます。

最近では、SGLT2阻害薬に良い効果があることが報告されています。

慢性心不全の非薬物治療

薬物治療だけでは心不全がコントロールできない場合もあります。心不全の原因となっている疾患をデバイスやカテーテル治療、外科的治療などで治療する方法を非薬物治療と呼びます。

原因に対する治療

心不全の原因に対して、薬以外で治療を行うこともあります。

疾患治療法内容
虚血性心疾患(心筋梗塞、狭心症など)冠動脈インターベンション
冠動脈バイパス手術
心臓を栄養する血管(冠動脈)の動脈硬化による血流低下に対する治療
弁膜症心臓弁修復
弁置換
血液を一方通行で循環させるための逆流防止弁が心臓に4つあります。
機能が低下(狭窄・閉鎖不全)した弁に対する治療
左室同期不全心臓再同期療法心室同期不全による心機能低下に対するペースメーカー治療の一種
不整脈カテーテルアブレーション治療不整脈(主に頻脈性)に対するカテーテル治療

重篤な不整脈による突然死を予防する

疾患治療法内容
致死的不整脈のリスクがある場合植込み型除細動器心不全患者さんの死因の一つである心室性不整脈に対するペースメーカー治療の一種

心臓をサポートする治療

運動療法・心臓リハビリテーション

適度な運動は心臓を補助・保護するのに役立ちます

呼吸補助療法

心不全による呼吸不全に対する酸素投与や陽圧酸素療法で症状を和らげることがあります

心室アシスト装置・心移植

自分の心臓では機能が果たせない場合に、心移植を検討します。心室アシスト装置と呼ばれる人工心臓で代用する場合もあります。

心不全になったら自己管理も大事

心不全では医師から、内服や食事、運動の指示があります。それをしっかりと実施することは、心臓を長持ちさせ、症状を悪化させないことにつながります。

自分で心不全についての意識をしっかりもって、長く続けられる自己管理を探りましょう。

詳しくは下のリンクを確認してください

よかったらシェアしてね!
  • URLをコピーしました!
  • URLをコピーしました!
コンテンツ