便秘を調整する薬物治療

食事や運動、生活習慣の改善を行っても便秘症が改善されない時に薬物治療が行われます。

便秘に対するお薬は多くはありませんが、最近新しい薬も出て選択肢が増えました。2023年に発表された「便通異常症診療ガイドライン2023 日本消化管学会」を参考に便秘の薬について説明します。

この項で扱う内容は、基本的に「一次性 機能性便秘症」の排便回数減少型に対する薬物治療になります。腸やその周囲に何らかの問題がある「器質性便秘症」については消化器科の専門医療機関医ご相談ください。

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まずは浸透圧性下剤を試します

浸透圧性下剤は、浸透圧の差を利用して腸内で水分を集めて便を柔らかくします。便が柔らかくなると便が大きくなり腸に蠕動を促します。内服を始めてから効果が出るまでに数日かかります。浸透圧性下剤には以下のような種類があります。

【浸透圧性下剤の種類】

  • 塩類下剤
  • 糖類下剤
  • 浸潤性下剤
  • 高分子化合物

塩類下剤 | 酸化マグネシウム

塩類下剤で最も広く使用されているのは酸化マグネシウムです。酸化マグネシウムは胃酸で塩化マグネシウムになり、腸管で炭酸水素マグネシウム、炭酸マグネシウムに変化します。浸透圧がにより水分を引き込みます。

習慣性が少なく、長期投与も可能であり広く使用されています。便の性状に応じて用量を調整します。

注意するポイントとしては、腎機能低下した患者さんでの高マグネシウム血症があります。定期的な血液検査が必要になります。

酸化マグネシウムによる高マグネシウム血症

マグネシウムは腸管から吸収され、腎臓から排泄されます。腎臓の機能が低下していると、マグネシウムの排泄が低下し体内のマグネシウム濃度が高くなることがあります。クレアチニンクリアランスが30未満では禁忌とされています。

高マグネシウム血症では、徐脈や心不全になる可能性があります。

高齢者、腎機能障害がある方は投薬が制限されます(高齢者の安全な薬物療法ガイドライン2015)。

下剤の種類一般名
塩類下剤酸化マグネシウム

その他の塩類下剤として、クエン酸マグネシウム、硫酸マグネシウムなどがあります。

糖類下剤 | ラクツロース

糖類下剤でよく使用されるのはラクツロースです。合成二糖類で吸収されずに浸透圧により便秘症に効果があります。腸管機能を改善し、自然な排便効果があります。

慢性便秘症の薬として、ラクツロースのゼリー製剤が使用できるようになりました。

下剤の種類一般名商品名
糖類下剤ラクツロースゼリーラグノスNF経口ゼリー

浸潤性下剤

ジオクチルソジウムスルホサクシネート(DSS)は、界面活性作用で便の表面張力を低下させて水分が含まれやすくなります。作用は強くありませんが刺激性が少なく習慣性も低い製剤です。

高分子化合物 | PEG

ポリエチレングリコール(PEG)は高分子化合物であり、電解質を含有した製剤が慢性便秘症に対して処方できるようになった。排便回数を増やし、便の性状を改善し、お腹の張りを抑える効果がある。

小児でも安全に使用でき、米国ではすでに推奨されていますが、日本では、「他の便秘症治療薬で効果不十分な場合に使用」するように条件があります(厚生労働省保険局医療課通知 令和2年11月)。

下剤の種類一般名商品名
PEGマクロゴール4000・塩化ナトリウム・炭酸水素ナトリウム・塩化カリウム散モビコール配合内用剤

浸透圧性下剤の次に選択される下剤

浸透圧性下剤や刺激性下剤以外の下剤が使用できるようになりました。下剤の種類としては上皮機能変容薬胆汁酸トランスポーター阻害薬があります。浸透圧性下剤が無効 or 不十分な時に使用されます。

日本では、「他の便秘症治療薬で効果不十分な場合に使用」するように条件があります(厚生労働省保険局医療課通知 令和2年11月)。

上皮機能変容薬

上皮機能変容薬は、腸の粘膜にある細胞に作用し塩化イオンを腸内に分泌させます。それにより水分が腸内へ移動し、便が柔らかくなり便秘を解消させます。

以下の2種類が処方可能ですが、塩化イオンを分泌させる機序が異なります。ルビプロストンはクロライドチャネルを活性化させます。リナクロチドはグアニル酸シクラーゼC受容体のアゴニストであり、cGMPを開始てチャネルを活性化させます。リナクロチドは消化管の感覚過敏を改善させます。

下剤の種類一般名商品名
上皮機能変容薬ルビプロストンカプセルアミティーザカプセル
リナクロチドリンゼス錠

どちらも副作用として下痢があります。どちらも減量した規格があり、適宜増減して使用されます。

  • ルビプロストン:通常量 25μg 1日2回、症状により適宜減量(12.5μg)
  • リナクロチド:通常量 0.5mg 1日1回、症状により適宜減量(0.25mg)

ルビプロストンは中等度以上の肝障害や重度の腎障害がある場合は、減量して慎重に投与されます(通常は24μgを1日2回だが1日1回から開始)。

胆汁酸トランスポーター阻害薬

肝臓で生成された胆汁酸は胆汁に含まれて小腸へ排出されます。その後、胆汁酸は小腸の末端で再吸収され、肝臓で再利用されます。

胆汁酸トランスポーター阻害薬は、胆汁酸の再吸収を抑制します。再吸収されなかった胆汁酸は大腸へ到達し、塩化イオン分泌を介して便の水分を増やしたり、腸の蠕動運動を促進することで便秘に効果があります。

下剤の種類一般名商品名
胆汁酸トランスポーター阻害薬エロビキシバット水和物錠グーフィス錠
  • エロビキシバット:通常量 10mg 1日1回、症状により適宜減量(5~15mg)

エロビキシバットは高齢者や慢性腎臓病患者に有効であったとする報告があります。

どうしても出したい時の下剤

浸透圧性下剤などで治療していても便秘が数日間続く時に使用される薬があります。刺激性下剤や外用薬(坐薬、浣腸)です。

刺激性下剤は使用してから排便までが数時間であり、浸透圧性下剤よりもキレが良い感じがあります。そのため、刺激性下剤を常用しているケースは少なくありません。

しかし、刺激性下剤は有効な薬であることは確かですが、耐性や習慣性の観点から頓用や短い期間に限った使用が勧められています。

刺激性下剤

刺激性下剤はアントラキノン系とジフェニール系があります。

下剤の種類一般名商品名
アントラキノン系センナ、センノシド、ダイオウなどセンナエキス、プルゼニド、セチロ配合錠など
ジフェニール系ビサコジル、ピコスルファートナトリウムなどテレミン(坐剤)、ラキソベロン

いずれも大腸のぜん動を促進し排便を促し、便秘を改善する効果が示されています。数時間で効果があります。大腸の蠕動を促進するため腹痛や下痢、脱水などの症状がでることがあります。

長期間常用することで耐性(効きにくくなる)ができたり、習慣性ができることがあるため頓用や短い期間に限った使用が勧められます。

また、アントラキノン系の下剤を常用すると大腸が黒くなる(大腸黒皮症)ことがあります。大腸黒皮症と大腸がんとの関連性ははっきりしていません。

外用薬など

便秘に対する外用薬としては浣腸や坐剤が使用されることがあります。外用薬以外に摘便や逆行性洗腸法があります。いずれの方法も直腸近くまで便が進んでいないと効果を発揮しません。耐性や依存があるため、できるだけ違う方法を選びたいものです。

浣腸

グリセリンを肛門から注入し、腸を刺激し排便を促します。常用すると耐性ができるため連用はさせる必要があります。グリセリン注入の際に直腸粘膜を傷つけると、血管内にグリセリンが入り込み溶血を起こす可能性があるため注意が必要です。

坐剤

坐剤としては炭酸水素ナトリウム・無水リン酸二水素ナトリウム配合錠(商品名 レシカルボン)とビサコジル坐剤(商品名 テレミン)があります。

炭酸水素ナトリウム・無水リン酸二水素ナトリウム配合錠は、発生した微細な炭酸ガスが直腸や結腸を刺激することで排便を促すとされています。

ビサコジルは腸の蠕動を促進する作用と腸粘膜への直接的な作用で排便を促します。

摘便や逆行性洗腸法

摘便は用手的に便を排出する医療ケアです。肛門付近まで便が降りてきているが、排出できない患者さんに行われます。

逆行性洗腸法はぬるま湯を肛門から直腸にかけて注入し排出する手技です。重度の症状がある場合に選択させることがあります。

補助的な治療薬

浸透圧性下剤だけでは効果が不十分であったり、変更が必要な場合に補助的な下剤を検討します。

プロバイオティクス

プロバイオティクスは「適正量を摂取することにより宿主の健康に有益な作用をもたらす生きた微生物」と定義されています。いわゆる乳酸菌やビフィズス菌といったものが有名です。

プロバイオティクスは安全に使用され、腸内環境を改善する効果が期待されます。便秘症の症状を改善する効果が報告されていますが、その種類は限られています。

プロバイオティクスについては多く市場にでていますが、国がその効果を認めているのは特定保健用食品(トクホ)に認定されているものになります。

消化管運動機能改善薬

消化管運動機能改善薬で、「便秘症」を適応として本邦で承認されている薬はありません。モサプリド(商品名 ガスモチン;適応症 慢性胃炎の諸症状)は消化管運動機能改善薬で、慢性便秘症に対して補助的に作用する可能性があります。

漢方薬

漢方薬の生薬のうち、腸管運動亢進作用、便軟化作用や刺激性下剤としての作用ががあるものがあります。

漢方の成分と便秘に対する効果

大黄(ダイオウ)刺激性下剤
芒硝(ボウショウ)硫酸ナトリウム。塩類下剤の効果が期待される。
枳実(キジツ)消化管運動亢進作用
麻子仁(マシニン)便軟化作用
当帰(トウキ)便軟化作用
芍薬(シャクヤク)平滑筋をやわらげて腹痛軽減
山椒(サンショウ)消化管運動亢進作用

便秘症として適応がある漢方薬(一部のみ記載)

処方名1日量での重要な生薬下剤のタイプ
大黄甘草湯ダイオウ 4g刺激性
防風通聖散ダイオウ1.5g、芒硝 0.9g刺激性+浸透圧性
潤腸湯ダイオウ2g、枳実2g、麻子仁2g、当帰3gクロライドチャネル刺激
麻子仁丸ダイオウ4g、枳実2g、麻子仁5g、芍薬2g便軟化作用

基本処方としては「大黄甘草湯」が処方されます。便がコロコロの場合は「麻子仁丸」が良いようです。また、肥満を伴う便秘には「防風通聖散」が勧められます。

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