致死的不整脈に対する植込み型除細動器(ICD)

植込み型除細動器(Implantable Cardioverter Defibrillator;ICD)は、心室性不整脈を検出して停止させるための植込み型心臓デバイスです。

心臓のポンプ機能が破綻するような心室性不整脈を放っておくと命に関わります。そのような不整脈を致死的不整脈と呼びます。致死的不整脈の既往がある方や発生するリスクがある方において、突然死を予防するためICD植え込みが必要になります。

ICDの種類や治療内容、適応について解説します。

コンテンツ

致死的心室性不整脈について

心室性不整脈(心室細動、持続性心室頻拍)は放っておくと致死的な状況になります。危険な状況になった場合、できるだけ早期にショック治療で不整脈を停止させる必要があります。

心室性不整脈の原因

心室性不整脈の原因は、心臓の病気をすでに持っているかどうかで分けられます。

心臓の病気がないにも関わらず心室性不整脈が出現する場合、特発性心室頻拍または特発性心室細動と呼びます。すでに心臓疾患があり、心室性不整脈が出た場合は二次性心室頻拍または二次性心室細動と呼びます。

  • 特発性:器質的な心臓の病気を伴わない場合
  • 二次性:何らかの器質的な心臓疾患に合併した場合
二次性心室性不整脈の原因疾患
  • 心筋梗塞
  • 拡張型心筋症
  • 肥大型心筋症
  • 不整脈原性右室心筋症
  • 心筋炎後
  • 先天性心疾患 など

植込み型除細動器(ICD)による治療

植込み型除細動器は致死的な心室性不整脈による突然死を予防するための医療用装置です

致死的な不整脈に対しては、素早く治療を行う必要があります。

植込み型除細動器は、心臓に挿入されているリードから心臓の電気情報を収集しています。不整脈が検出されたら、電気ショックや抗頻拍ペーシングにて心室性不整脈を自動で止めに行きます。

ICDの種類

ICDにはペースメーカーのようにリード線を心臓に挿入するタイプと皮下に植え込むタイプがあります。

経静脈リードのICD

本体を前胸部に植込み、リード線を血管を通して心臓に挿入します。植込みには侵襲的な手術が必要です。

一般的に植込み型除細動器と呼ばれるのはこちらの機種です。

皮下植込み型除細動器(S-ICD)

胸の側面(脇の下あたり)に除細動器の本体が植え込まれます。

筋肉の裏に植え込まれます。皮膚の下にリード線を通し、胸の真ん中の骨(胸骨)に沿って留置されます。

通常のICDとの違いは、血管や心臓の中にリード線を通さないことです。そのため、手術に関連した合併症のリスクが減ります。

ただし、治療の内容がショック治療に限定されます。

ショック治療が可能なCIEDは、植込み型除細動器(ICDまたはS-ICD)両室ペーシング機能付き植込み型除細動器(CRT-D)になります。

ICDで心室性不整脈を治療する方法

植込み型除細動により心室性不整脈を治療する方法が2つがあります。

  1. ショック治療
  2. ペーシングで止める治療(抗頻拍ペーシング)

ショック治療

危険な不整脈と認識した場合、できるだけ早く不整脈を止めたほうが良いです。高電圧のショック治療で不整脈を止めにいきます。

高電圧が流れるので、意識がある状態であれば体に衝撃を感じます。

抗頻拍ペーシング

比較的心拍数が安定しており、意識がなくなるほどではない不整脈に対しては、低電圧のペーシングで不整脈を止める方法です。

ショック治療のような強い衝撃はないため、治療に気づかない場合もあります。頻拍が止まらない場合は、最終的にショック治療へ移行することもあります。

皮下植込み型除細動器には、この機能はついていません。

植込み型除細動の不整脈検出から治療まで

STEP
不整脈の検出

植込み型除細動器は、心臓の電気現象をずっと監視しています。心室性不整脈が発生したら、すぐに検出が始まります。

STEP
治療の対象と認識

心室性不整脈は短時間で自然に止まるものあります。どの程度の不整脈がどのくらい持続したら治療を行うかを設定しておきます。その設定値を超えたと植込み型除細動器が認識し、治療へ移行します。

STEP
治療を行う

どのくらいの心拍数の不整脈なのかで、治療内容を設定することができます。非常に心拍数が速い不整脈はすぐに止めたいのでショック治療を行う、あまり速くない治療は抗頻拍ペーシングを行うなど。

危険な不整脈と認識した場合に、ショック治療を行うか抗頻拍ペーシングで止めるのか。患者さんごとに設定することができる

ICDの適応

ICD植込み術の適応を知る上で、一次予防と二次予防という考え方が重要になります。

【ICDの一次予防と二次予防】

二次予防:これまでに致死的な心室性不整脈から蘇生された患者さんが、不整脈再発による突然死を予防するためにICDを植え込む場合、二次予防とされます。

一次予防:これまで致死的な不整脈は出ていないものの今後出る可能性が高いと判断され、突然死予防のたICDを植え込まれる場合、一次予防とされます。致死的不整脈のリスクが高いかの判断が必要になります。

二次予防でのICD適応

二次予防のICD適応は、これまでに致死的な心室性不整脈から蘇生された患者さんが、不整脈再発による突然死を予防するために行われます。冠動脈疾患(心筋梗塞や虚血性心筋症など)の場合と非虚血性心筋症(冠動脈疾患が原因ではない)の場合で分けて適応が決まっています。(日本循環器学会/日本不整脈心電学会合同ガイドライン 不整脈非薬物治療ガイドライン(2018 年改訂版)を参照)

冠動脈疾患の二次予防適応
非虚血性心筋症の二次予防適応

一次予防でのICD適応

基礎心疾患がある場合、死因となるのは心不全の進行か不整脈による心臓突然死です。どのような患者さんに心臓突然死が起きやすいのか。ケースバイケースのところもありますが、以下のような適応でICDによる一次予防がなされます。

器質的な心臓の病気があり原因不明の失神を認めた場合、不整脈が原因であることが推測されるためにICDが適応となる場合があります。

冠動脈疾患の一次予防適応
非虚血性心筋症の一次予防適応
原因不明の失神に対する適応

疾患別の適応

ガイドラインでは、肥大型心筋症、不整脈原性右室心筋症、ブルガダ症候群などのICD適応について記載があります。ここでは省略します。

植込み手術のリスクは?

植込み手術は、リード線を血管を通って心臓内へ到達させます。比較的安全な手術と言えますが、一定の確率で合併症が起こることがあります。

ペースメーカー手術で起こりうる合併症

術中の合併症

  • 気胸
  • 血管合併症
  • 心穿孔
  • 脳虚血症状
  • 造影剤による副作用
  • 放射線による障害

術後早期の合併症

  • リード位置移動
  • 血腫
  • 植込み部感染
  • 横隔膜刺激
  • 下肢深部静脈血栓症

術後遠隔期の合併症

  • リード断線
  • 植込み部皮膚壊死
  • 静脈閉塞
  • ペースメーカー症候群
  • 皮膚壊死

手術の費用・身体障害者申請・自動車運転について

手術の費用について

ペースメーカー手術は高額療養費制度の対象になります。年齢や所得に応じて支払う限度額が変わります。さらに、適切な状況でペースメーカー植込み術を受けると各自治体の役所に申請すると身体障害者の1級に認定されます。

障害者医療費助成制度により助成を受けることができるようになります。ただし所得制限があるようですので、詳細は治療を受ける施設にお問い合わせください。

生命保険会社へ手術給付金申請

生命保険に加入されている方は、入院や手術に対する給付を受けることができます。保険会社によって手術給付金の対象手術が異なる場合がありますので、ご加入の保険会社にご確認ください。

正式名称植込み型除細動器移植術
コードK 599

交換術の場合

正式名称植込型除細動器交換術
コードK 599-2

身体障害者の申請

植込み型心臓デバイスを植え込んだ場合、申請することで身体障害者に認定されます。等級については、治療の推奨クラスや身体活動などで変わります。詳しくは下のリンクで確認してください。

自動車運転について

植込み型除細動器が植え込まれた場合、基本的に自動車運転は禁止されます。ただし、不整脈の状況などで運転が許可さえる場合があります。詳しくは下のリンクで確認してください。

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