ペースメーカーは本体に内蔵された電池で駆動しており、長期間の使用によって電池が消耗します。
電池が切れてしまうとペースメーカーが止まってしまい、徐脈が顕在化してしまいます。電池が切れる前に新しい本体に交換する必要があります。
ペースメーカー交換までの道のり
交換術の時期を決める
電池の消耗をフォロー
ペースメーカーは植え込んだ後に、外来でのチェックや遠隔モニタリングにてフォローされます。いろいろな項目をチェックしますが、重要な項目の一つが電池の消耗状態です。
ペースメーカーの使用状況で、後どのくらいで電池がなくなってしまうかを推測しています。
電池消耗の指標
電池消耗の指標としてERIとEOLがあります。
- ERI(elective replacement indicator)
ペースメーカーの電池が消耗して、枯渇が近い状況です。まだ、ペースメーカーの設定した機能を維持することができます。ERIになる前に交換術の予定を立てます。
- EOL(end-of-life)
ペースメーカーの電池が枯渇しかかっている状況です。ペースメーカーの設定した機能が使えなくなり、されに消耗が進むと十分な電気を流すことができず徐脈となってしまいます。
早急に交換術を行う必要があります。
後どのくらいでERIの時期になるかを推定し、差しかかる前に交換術の予定を立てます。
交換前の確認
ペースメーカー交換術では、ペースメーカー本体の交換を行います。ペースメーカーシステムのうちペーシングリードは継続して使用します。交換術の前に、ペースメーカー本体の交換のみで良いのかを確認します。
リードはそのまま使える?
最近のペーシングリードは以前と比較して損傷しにくくなりました。かなり高い確率で10年以上経過しても、継続して使用可能です。ただし、まれに経過中にリードの機能が落ちてしまうことがあります。
- リードをコーティングしている被膜が損傷
- リードの内部の電線が断線
- 心筋への電気信号が伝わりにくくなった など
リードの機能が落ちていたら、慎重に経過見ながら継続して使用するか新しいリードを追加するかを選択します。
新しいリードを追加する場合は、ペースメーカー交換術ではなくペースメーカー植込み術になります。
心機能は変わりない?
ペースメーカーの問題点の一つに、右心室ペーシングによる心機能低下があります。
全心拍数のうちペースメーカーによる心室の収縮の割合を右心室ペーシング率と言います。右心室ペーシング率が高いことで、心室のポンプ機能が落ちてしまうことがあります。
20%以上の右室ペーシング率がある場合は注意が必要です。
右心室ペーシングによる影響で心臓の働きが落ちていことが確認された場合、両室ペーシングという方法を取ることがあります。両室ペーシングをする際には、新たなペーシングリードを挿入する必要があります。心機能低下が疑われる場合は、心エコー検査で確認します。
入院から治療まで
ペースメーカー交換術は入院して行います。
入院後は内服薬の管理をしたり心電図モニターをつけて不整脈の状況を確認します。ペースメーカー植込み部に胸毛があれば剃毛します。手術の妨げになる薬は、治療前(場合によっては入院前)より休薬することになります。
ペースメーカー交換術 直前の準備
- 点滴ルートの確保
- 尿道カテーテルは挿入する場合としない場合があります。主治医に確認してください。
- 検査着に着替えます。
- 直前の食事は摂らないようにします。
- 抗生剤の投与:手術中に薬がきちんと効くようなタイミングで始まります。
準備が整ったら、手術を行う部屋へ向かいます。
通常のペースメーカー交換術の流れ
手術時の感染を予防するために、手術する場所を広めに消毒します。
図には書いていませんが、清潔な布で手術の場所以外を覆います。
切開をする場所に局所麻酔を行います。
皮膚をメスで切開します。
皮膚・脂肪の下で筋肉(大胸筋)の上あたりにペースメーカー本体があります。
そこまで、慎重に皮下組織を切り開いていきます。
被膜に覆われた本体が見えてきます。
被膜をある程度除去し、本体を剥き出しにします。
本体をポケット内から取り出します。
このときに、リードも被膜で覆われているのである程度剥離します。
リードと本体の接続を外します。
新しい本体とリードを接続します。
リードが問題ないかもう一度チェックします。問題あれば、追加の治療が必要になります。
リードとペースメーカー本体をポケット内に埋包します。
皮下をしっかりと縫合します。
皮膚の表面は、医療用のボンドで固定したり、テープで固定したりします。主治医にご確認ください。
ペースメーカー交換術の合併症
ペースメーカー交換術で起こりうる合併症です。合併症が発生する頻度はわずかですが、全くリスクのない治療とは言えません。
- 手術・手技による合併症
- ポケットに関連した合併症
- ペースメーカーシステムに関連した合併症
手術・手技による合併症
手術中に関連した合併症には以下のようなものがあります。
脳虚血症状
ペースメーカー本体からリードを外して、新しい本体に接続しなおします。その際に、ペースメーカーの機能が一旦止まりますので、心拍が数秒間停止することがあります。一過性に脳虚血症状(気が遠くなる感じ)が生じることがあります。
下肢深部静脈血栓症
術後の安静などにより下肢の静脈に血栓ができる可能性があります。血栓が剥がれて血流に沿って肺動脈に詰まると、胸痛や息苦しさを自覚します。血栓を溶かす治療が必要になります。
できるだけ安静時間を短くすることで予防します。男性ストッキングや下肢ポンプを使用する場合もあります。
ポケットに関連した合併症
ペースメーカーを挿入するポケットに関する合併症には以下のようなものがあります。
本体植込み部の血腫(頻度:1%未満)
皮下に血の塊(血腫)ができることがあります。
軽いものは問題ありませんが,高度なものは血腫を取り除く手術が必要となります。
ペースメーカー感染(ポケット感染、心内膜炎)(頻度:1-5%)
ポケット感染:ペースメーカー本体を挿入しているポケットに細菌が感染することがあります。ポケット周囲が赤くなって腫れたり、痛くなります。心内膜炎に至る可能性があります。
心内膜炎:リードなどに細菌がついて感染し、心臓内に炎症を起こしている状態です。
術後早期に見られることもありますが、数ヶ月後・数年後に出現することもあります。
対応:どちらの状況でもペースメーカー本体とリードを全て抜去し、別の位置に入れ替える必要があります。
本体植込み部の皮膚壊死・本体露出(頻度:1%未満)
ペースメーカー本体を植え込んだ場所の皮膚が薄くなり壊死することがあります。感染していると判断します。
対応:ペースメーカー本体とリードを全て抜去する必要があります。
ペースメーカーシステムに関連した合併症
ペースメーカーを植込んだ後の、ペースメーカーシステムに関する合併症です。
ペーシングリードの損傷
交換術の際に、術前には確認できなかったリード損傷を認めることがあります。また、長期間の使用によりリードが損傷することがあります。
損傷リードを修復するか、機能が果たせない場合は新しいリードを追加する必要があります。
本体またはリードのリコール
植え込んだペースメーカー本体やリードが、後に製造過程で問題があったことが判明することがあります。慎重なフォローを行ったり、場合によっては交換術を行うこともあります。
退室〜退院までの管理
退室の準備
手術が終わったら、植え込んだばかりのペースメーカーに問題がないかをチェックします。血圧や呼吸状態を確認し、安定していることを確認して病室へ戻ります。
病室での管理
病室にもどってからも、しばらくは観察が必要になります。
- バイタル
- 血圧や酸素、意識状態などを確認しながら問題が起きていないかを観察します。
- 治療後に明らかになる合併症もあります。
- 心電図モニター
- 治療した不整脈や違う不整脈が出現しないかモニタリングします。
退院までの管理
- 創部に血腫や感染の兆候がないかを確認します。
- 数日間、創部の痛みを感じることがあります。鎮痛薬にて対応します。
- ペースメーカーの不具合(まれに術後に顕在化する不具合もある)がないか確認します。
- 退院後の注意点について説明を受けます。
- 希望があれば遠隔モニタリングの説明を受けます。