心室期外収縮とは
心室期外収縮とは、心室から発生した余計な電気信号により、外れたタイミングで生じる心室の収縮です。健康診断で指摘されることがあります。
単発の「局所型」の電気興奮が心室で発生して発生します。
- 心臓に病気のない人でも心室期外収縮は発生し、多くの場合は特に心配なく治療は必要としません。
- 心室期外収縮が非常に頻回に発生している場合や、元々心臓に病気を有している場合は治療が必要になることがあります。
心室期外収縮の症状
多くの方は無症状。
症状がある場合は、動悸症状と心ポンプの機能低下による症状があります。
- 動悸症状
外れたタイミングでの心室収縮による症状を自覚することがあります。
- ドキッとする
- 心臓がビクッとする
- 咳がでる
- 心ポンプの機能低下による症状
心室期外収縮の頻度が多いと、心臓の機能が落ちることで感じる症状があります。心不全のような症状です。
- 動くと息が上がる
- 足がむくむ
診断は心電図
診断は心電図で行います。
- はずれたタイミングで幅の広いQRS波形を認めます。
病院にかかるタイミングは?
心室期外収縮を指摘されたら、一度は必ず心臓の専門がいる病院で診てもらいましょう
自覚症状がなくても、心室期外収縮を指摘されたら心臓を専門とする病院(循環器内科)を受診しましょう。まれですが、心室期外収縮により心臓の働きが落ちていたり、心臓の病気が隠れていることがあります。
心室期外収縮を見つけたら
心室期外収縮を見つけたら、チェックするポイントは心室期外収縮の頻度と心臓の機能です。
心室期外収縮の頻度をチェックする
心室期外収縮の頻度が多いほど、心臓の働きに悪影響を与えると考えられます。1日の心拍数のうち心室期外収縮が占める割合を調べる検査がホルター心電図です。
頻度の目安は 10% です。1日の総心拍数のうち10%を超えてくると、心臓の働きに影響する可能性があります。ただし、頻度が多くても心臓の働きに問題ないことも多いです。
まれに心室頻拍(心室期外収縮が連発)を認めることもあります。
24時間連続で心電図を記録する装置です。装着したままいつも通り生活をしてもらいます。
多くの医療機関で行うことができます。
心臓の働きを調べる
心室期外収縮により心臓の働きが落ちていたり、心臓の病気が隠れている可能性があります。心臓の働きを見る検査は、心エコー検査です。
体の外から心臓を観察できる検査です。超音波を利用した医療機器で、体に対する害はありません。
心エコー検査でわかること
- 心臓の部屋の形や大きさ
- 心臓が収縮する能力・拡張する能力
- 心臓がダメージを受けている場所と広さの把握
- 弁膜症の状態
など重要な情報が得られます。
心臓の働きが低下していた場合
以下の可能性を考えます
- 心臓の働きは元は正常であるが、心室期外収縮が頻繁に出現したことで心臓の機能が低下している
- 既存の心臓の病気があり、進行したことで心室期外収縮が増えている
循環器内科専門の医療機関で精査を受けましょう。
心室期外収縮の原因は?
以下のような状況では心室期外収縮の頻度が増える可能性があります。
- 心臓を活発にさせる薬の内服
- アルコール多飲
- カフェインなどの過剰摂取
- 運動や不安による体内のアドレナリンのレベルの増加
- 心臓の病気
特に明らかな原因がない心室期外収縮は特発性心室期外収縮と呼ばれます。
心室期外収縮の治療方針
自覚症状の有無や心臓の働きを参考に治療方針を決めます。
自覚症状がなく、心臓の働き問題なし
ほとんどの人がここに当てはまります。
心臓の働きに問題がない場合、心室期外収縮の予後は良いとされています。症状がない、または軽い場合は経過観察となります。
心室期外収縮の頻度は変化することもありますので、定期的に受診しましょう。
定期的な心電図や心機能の追跡が推奨されています。
症状(動悸、意識消失など)の出現や心機能低下を認めた場合は、患者さんと相談しカテーテルアブレーションを検討しましょう。
2024年 JCS/JHRS ガイドラインフォーカスアップデート版「不整脈治療」より
自覚症状があり、心臓の働き問題なし
自覚症状があり、心室期外収縮の頻度が多い場合は、治療の対象になります。心室期外収縮の治療は、薬物療法やアブレーション治療となります。
心室期外収縮を指摘された場合に、注意すべき症状はめまいやふらつきです。通常は単発の期外収縮が、連発することで一時的に血圧低下をきたすこともあります。
失神したり、心不全になる可能性があります。非常に脈拍が速かったり、頻繁に出現したりする場合は、早急に何らかの対応が必要です。入院して薬物療法を強化する場合もあります。アブレーション治療が強く勧められます。
心臓の働きが落ちている
心エコー検査にて心臓の働きが落ちていることが確認されたら、さらなる精査を行います。
心臓の働きが落ちている原因を探ります。例えば、狭心症や心筋梗塞といった虚血性心疾患がないか、心筋症と呼ばれる病態がないかを調べます。
- 心臓の働きが落ちている原因が特定された場合
例えば、虚血性心疾患が見つかった場合は治療(ステント留置やバイパス手術など)を行うことで、心室期外収縮は減ることがあります。
そのような治療を行なっても、心室期外収縮の頻度が多く心臓の働きの改善が乏しい場合は、薬物療法やアブレーション治療を行います。
- 原因が特定されない場合
心臓の働きが落ちている原因がはっきりしない場合は、心室期外収縮による心機能低下を考えます。薬物療法やアブレーション治療を行います。
心室期外収縮の頻度が減ることで心臓の働きが回復した場合、心室期外収縮による心機能低下だったのだと判断します。つまり、治療してみないと心室期外収縮による心機能低下かどうかはわかりません。
心室期外収縮の治療
心室期外収縮による問題があると判断し、治療の希望があれば治療が開始されます。
症状が強くなければ、抗不整脈薬を用いて心室期外収縮の頻度を低下させます。完全に期外収縮を消失させることは難しいでしょう。
症状が強かったり、抗不整脈薬が無効な場合はアブレーション治療で根治的な効果を期待します。心臓のカテーテル治療であり、リスクはゼロではありません。専門の医師とよく相談して治療を受けるかどうかを決めましょう。
- 抗不整脈薬
期外収縮が出にくくする薬を用います。抗不整脈薬と呼ばれる薬です。
不整脈を抑える効果は不安定であったり、強すぎで副作用が出たりすることもあります。できれば漫然と内服するのは避けたいところです。
- アブレーション治療
カテーテルで心臓の筋肉にヤケドを作る治療です。
心室期外収縮を根治的に治療できる可能性があります。薬よりも効果があります。
自覚症状や心機能低下がある場合は、アブレーション治療をお勧めします。
不整脈の発生の引き金となる誘因を取り除こう!
- バランス良い食事
飽和脂肪酸やトランス脂肪酸を抑えるため肉類や菓子類は控えましょう。肉よりも魚を選択します。
炭水化物は取り過ぎに注意(ご飯の量を測る)し、全粒穀物(玄米、全粒粉など)の割合を増やしましょう。野菜、きのこや海藻などを多く取り入れましょう。
果物も適度に食べてください。発酵食品も良いかもしれません。
- 適度な運動と健康的な体重を維持
できるだけ座っている時間を短くします。息が上らない程度の持続的な運動(有酸素運動)を可能であれば、30分間行うことを目標にしましょう。まずはいつもより10分間は歩くなど、身体活動を生活に取り入れます。
肥満があれば、減量に励んでください。肥満は多くの心臓病や生活習慣病のリスクを高めます。
- 血圧やコレステロールのコントロール
高血圧や高コレステロール値は、心臓病のリスクを上げます。心臓の負担を取るためにもライフスタイルの見直しに努めましょう。
健康診断などで指摘されたら、かならず近くの医療機関に相談しましょう。
- ストレスのコントロール
精神的および身体的ストレスは、不整脈を増やし心臓に悪い影響を与えます。不必要なストレスを避けるように心がけましょう。
瞑想やヨガなども効果があるでしょう。
- アルコールを制限
アルコールと不整脈は強く関係しています。不整脈を持っている方は、アルコールはできるだけ摂取しないほうが良いとされています。
- 禁煙
喫煙習慣も心臓への負担を増やし、不整脈に影響します。禁煙を強く勧めます。
近くの禁煙外来をしているクリニックに相談してもよいでしょう。
- 睡眠時無呼吸症候群の評価を
睡眠時無呼吸症候群は不整脈の原因となります。さらに不整脈以外にも、多くの病気の原因になります。
いびきや睡眠中の無呼吸が指摘されたことがあれば、一度は必ず検査を受けましょう。重症度に応じてCPAP治療などを行います。きちんと治療をしないと予後が悪いこともわかっています。
学校検診の心室期外収縮
学校検診で心室期外収縮を指摘された場合は、2次検診を受ける必要があります。
心室期外収縮により心臓の働きが落ちていたり、心臓の病気が隠れている可能性があるからです。さらに、学校では体育や部活動があり、高度の運動を行う機会があります。
心臓に問題がありながら高度の運動を行うことで、命に関わるような危険な不整脈が出現する可能性があります。しかし、その可能性は極めて低いです。ほとんどの方は、何の問題もなく通常通りの生活が可能です。
ただし、ごく一部の方で心臓に問題がある可能性があるため、2次検診で評価をする必要があります。学校検診で心室期外収縮を指摘されたら、2次検診を受けましょう。
2次検診では、12誘導心電図、運動負荷心電図、ホルター心電図、(施設によっては心エコー検査)が行われます。
管理指導区分と運動クラブ活動
2次検診の結果で、以下のような管理指導区分に分けられます。
- 頻度が少なく(1分間に2つ以下)、連発がなくて、運動負荷で頻度が増えない場合
- E 可(観察間隔:1〜3年)
- 強い運動をしても良く(E)、運動クラブ活動も可能(可)
- 観察期間は1年から3年の間で行われます
- ここに該当される方がほとんど
- 長期観察例で減少傾向または変化がなければ管理不要でもよい
- 運動負荷で増える または 連発を認める場合
- D、E 禁 または E 可(観察間隔:1〜6ヵ月)
- 管理の範囲は中等度の運動〜強い運動となり、運動クラブ活動は可能な場合と禁止される場合があります
- 激しい運動をすることで危険な不整脈に移行するリスクがあると考えます
- 制限の幅があるのは、心室期外収縮の頻度や連発の程度に幅があるからです
- 3連発以上になると、非持続性心室頻拍に該当し、運動クラブ活動が禁止になるなど判断基準がさらに厳格になります
- 多形性心室期外収縮を認める場合
- D、E 禁 または E 可(専門医の精査を必要とする)
- 心室期外収縮の心電図波形が複数ある場合は、厳しく運動制限されます
- 詳しい心臓の精査が必要となります
- 心臓専門の小児科・循環器内科にてフォローを受けましょう
日本循環器学会/日本小児循環器学会合同ガイドライン 2016年版学校心臓検診のガイドライン参照
参考:管理指導区分と運動クラブ活動(一部のみ提示)
- 管理指導区分 D:「同年齢の平均的児童生徒にとっての」中等度の運動も参加可
- 管理指導区分 E:「同年齢の平均的児童生徒にとっての」強い運動も参加可
- 運動クラブ活動:可 or 禁
- 中等度の運動
- 同年齢の平均的児童生徒にとって、少し息がはずむが、息苦しくはない程度の運動
- パートナーがいれば、楽に会話ができる程度の運動であり,原則として、身体の強い接触を伴わないもの
- レジスタンス運動(等尺運動)は「強い運動」ほどの力を込めて行わないもの
- 強い運動
- 同年齢の平均的児童生徒にとって、息がはずみ息苦しさを感じるほどの運動
- 等尺運動の場合は、動作時に歯を食いしばったり、大きな掛け声を伴ったり、動作中や動作後に顔面の紅潮,呼吸促迫を伴うほどの運動.